共同通信
長野県のブランド魚「信州サーモン」が今年デビュー20周年を迎えた。海なし県でおいしい魚を届けようと開発され、県内中心に旅館や飲食店で人気を集める。訪日したバイデン米大統領に振る舞われるなど知名度が高まり、県外の需要も右肩上がりだが供給が追い付かない課題に直面する。(共同通信=奈良幸成)
北アルプスの麓に広がる同県安曇野市では、養殖業者「マルト水産」のいけすで約2万5千匹のサーモンが透き通った水の中を泳ぎ回っていた。
信州サーモンは、養殖魚の主流だったニジマスに、病気に強い欧州原産のマス「ブラウントラウト」を掛け合わせた品種で、稚魚から約2年かけて全長50~60センチ、体重1.5~2キロ程度に成長する。ほどよい脂身としっかりとした歯ごたえで臭みがないのが特徴だ。
旅館や飲食店から「海のない長野でおいしい生魚を提供したい」との要望をきっかけに開発が始まった。県水産試験場が約10年かけてうまみが凝縮するよう改良を重ね、2004年に水産庁から養殖品種として承認された。養殖業者は見栄えのよい赤身に育て重さ1キロ以上で出荷する基準を設けブランド化を進めた。
その名を広めたのは、2022年に東京都内で開かれた岸田文雄首相とバイデン大統領の夕食会でムニエルが提供されたことだった。マルト水産にも東京や大阪、名古屋といった三大都市圏の業者から問い合わせが殺到。例年の5割増の注文が入って生産が追い付かず、通常より小さいサイズで出荷している。徳竹豊社長(74)は「それでも出荷を待っている顧客がいて申し訳ない」と話す。
県水産試験場によると、県内の生産量は2022年度が412トンで2009年度より2倍となり、2027年度には450トンを目指す。開発担当の小川滋専門研究員は、地域発のサーモンは全国に100種類以上あり、競争が激しくなっているとし「需要の急増に対応するため、早く大きく育つよう改良を進めたい」と気を引き締めた。