この記事の初出は2024年8月20日
「政策をもっと語れ」と突っ込む米主要メディア
このような経緯があるため、共和党系のメディアばかりか、民主党系のリベラルメディアまで、ハリス対して、「自らの政策、政権構想をもっと語れ」と不満を表すようになった。
8月11日の「ワシントン・ポスト」のエディトリアル(社説)は「ハリス氏が勝利したいのなら、自身の考えを示す必要がある。メディアや国民の正当な疑問と向き合うべきだ」と訴えた。
これまでの遊説では、トランプを「過去」(past)と位置づけ、自らの勝利で「未来」(future)を切り開くと支持者を熱狂させてきたが、そんな曖昧な話では本当の支持は得られないというのだ。
「ワシントン・ポスト」をはじめとする主要メディアが問題視しているのは、最大の焦点とされる「不法移民」を今後どうするか、ロシア・ウクライナ戦争、イスラエル・ハマス戦争、東シナ海、南シナ海における中国の脅威など
現在進行形の戦争や危機に、米軍の「最高司令官」となってどう対処するかなど、彼女のスタンスが明確ではないことだ。
さらに、インフレが進行中の経済をどうするかという大問題もある。
なぜ大統領になりたいのかが見えてこない
これまでハリスは、内外の課題や危機に対する具体的な政策構想に触れる発言をしたことはほとんどない。大統領候補になってから、主要メディアとの対面インタビューにも応じていない。これでは、大統領になってなにをするのか見えてこない。
ただ、政治家になってからの言動を追ってみると、彼女の主張は、民主党の左派とほぼ同じでかなり左寄りである。不法移民に市民権を付与する、警察予算および国防予算を削減する、国民皆保険を実現させるなど、中道派と右派が嫌う発言を繰り返している。
そしてなによりも見えてこないのは、なぜ検事から政治家になったのか、なぜ大統領になりたいのかという、政治信条とその物語である。これがもしないとなると、単なる「反トランプ」「初の女性大統領」という看板だけに終わってしまう。
民主党大会の受諾演説でなにを言うのか?
民主党の全国党大会は、8月19日の夜から22日までの4日間の日程で、シカゴで開かれる。
(注:19日夜は日本時間20日朝なので、民主党全国大会はこのメルマガ配信とほぼ同時に始まります。したがって、本稿は民主党全国大会前までの時点の情報に基づいていることに留意してください)
民主党全国大会の初日となる19日のテーマは「人々のために」で、バイデン大統領が基調演説を行う。ヒラリー・クリントン元国務長官も19日に演説を行う予定になっている。
そのほか、大会期間中の登壇スピーカーには、20日がオバマ元大統領やハリスの夫のダグ・エムホフ氏。21日が副大統領候補のティム・ウォルズ氏(これまで日本のメディアの表記に従いワルツとしてきたが、今回から原音に近いウォルズに変更する)やビル・クリントン元大統領、ナンシー・ペロシ元下院議長などが予定されている
そして、最終日の22日には、ハリスが指名受諾演説を行うことになっている。
この指名受諾演説で、彼女がなにを言うのか。明確な政策、および政権構想を述べるのか。それがもっとも注目されることである。しかし、現時点では、政策においてはバイデン政権の政策をそのまま継承するという見方しか、伝わってこない。(つづく)
この続きは9月13日(金)発行の本紙(メルマガ・アプリ・ウェブサイト)に掲載します。
※本コラムは山田順の同名メールマガジンから本人の了承を得て転載しています。
山田順
ジャーナリスト・作家
1952年、神奈川県横浜市生まれ。
立教大学文学部卒業後、1976年光文社入社。「女性自身」編集部、「カッパブックス」編集部を経て、2002年「光文社ペーパーバックス」を創刊し編集長を務める。2010年からフリーランス。現在、作家、ジャーナリストとして取材・執筆活動をしながら、紙書籍と電子書籍の双方をプロデュース中。主な著書に「TBSザ・検証」(1996)、「出版大崩壊」(2011)、「資産フライト」(2011)、「中国の夢は100年たっても実現しない」(2014)、「円安亡国」(2015)など。近著に「米中冷戦 中国必敗の結末」(2019)。