フェンシングの剣、包丁にアップサイクル

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共同通信
折れたフェンシングの剣(上)から包丁(下)を作る過程=2024年7月、福井県越前市

 福井県越前市に伝わる「越前打刃物」の工房が、折れたフェンシングの剣で包丁を作った。パリ五輪に出場した同市出身の見延和靖選手が、不要品に付加価値を付けて生まれ変わらせる「アップサイクル」として提案。電線を通す溝の跡を残し、独特のしなりがある包丁に仕上げた。製作を手がけた高村光一さん(60)は「包丁を通じてフェンシングのことを知ってもらえたら」と話す。(共同通信=恒吉慧梧)

 日本スポーツSDGs協会によると、フェンシングの剣は半年から1年使うと折れ、廃棄されてきた。ニッケルやモリブデンといった高価な素材を含む「マルエージング鋼」でできている。2021年の東京五輪が終わったころ、見延選手や協会から「越前打刃物の技術を活用できないか」と、以前から親交のあった高村さんに声がかかり、試作が始まった。

 マルエージング鋼はしなりが良く、折れにくい半面、硬度は低い。高村さんは約800度の高熱を加え冷却する「焼き入れ」という工程の代わりに、より低い温度で長時間熱すると硬度が高まる「時効硬化」という現象を活用し、包丁として使える硬度を確保した。

 まず折れた剣の柄から十数センチの部分を約800度の熱を加え、たたいて延ばす。再び800度で熱し金属内組織を再生した後、約480~550度で約5~6時間熱し、一気に冷却。磨きや研ぎの過程を経て、包丁に生まれ変わる。

 剣にある電線を通すための溝は延ばす過程でつぶれてしまうが、表面を磨くと跡が浮かび上がる。「この溝がフェンシングの剣であった証拠だ」と高村さん。完成品を手にした見延選手は「何も文句はない」とうなったという。

 包丁は長さ約30センチ、刃渡り約17センチで、1本9万8千円(税別)。全て手作業のため、大量生産はできない。日本スポーツSDGs協会のオンラインショップで販売している。

 パリ五輪で見延選手は男子エペ団体で銀メダルを獲得した。高村さんは「包丁を手に取って、選手の努力や日本の技術に思いをはせてほしい」と語った。

包丁に浮かび上がった電線を通すための溝の跡=2024年7月、福井県越前市
折れたフェンシングの剣から作られた包丁を手にする高村光一さん=2024年7月、福井県越前市