共同通信
ヒマラヤ山脈を擁するネパールで、ドローンを使った事業が育っている。インフラが未発達のため困難だった輸送や災害対策、地図作成への活用が進む。最新技術や知恵で険しい地形や厳しい気象条件を乗り越えている。(共同通信=角田隆一)
▽シェルパの命も救える
「徒歩で8時間かかることもあるのに、到着まで6分間だ」。2024年4~5月、回転翼型ドローンが標高5400メートル超のエベレストベースキャンプからキャンプ1まで、酸素ボンベや食料を運んだ。帰りはごみを積んで戻る。積載量は15キロ程度。両地点の間には巨大な氷河の裂け目があり、命を落とす登山者も珍しくなかった。
操縦者は登山ガイドや物資輸送を担ってきたシェルパ民族の1人。運用した新興企業、エアリフトのラージ・マハルジャン創業者(32)は「シェルパの命を救え、登山の成功率も上がる。環境にも優しい」と話す。機体はドローン世界最大手の中国企業DJIから提供を受けた。
「空気が薄い高地では特殊な翼を使う。気温は低く、風も強く気象は過酷だ。世界で一番の運用能力だと思う」。電気が通っていないので電源は発電機に頼った。多様なデータを集めるため、約20回試験飛行。登山隊や州政府を顧客として2025年から事業を本格化する。
▽衛星より正確
峻険な山々が連なるネパールは道路の整備が十分ではない。世界経済フォーラム(WEF)によると、道路整備は137カ国・地域中118位にとどまる。陸路で行くのが難しい遠隔地の災害対策やインフラ建設でもドローンは活躍する。
新興企業ジオベーションはドローンから撮影した画像やレーザー光が距離を検出する技術で、3D地図を作成。政府や企業から大雨による増水の予測や、ダムや送電塔の建設予定地の調査を請け負う。ジオベーションのウペンドラ・オリ代表(31)は「衛星写真は高価な上、数十メートル単位でしか地形を把握できない。ドローンはより正確にデータを集められる上、人が行けない場所にも行ける」と話す。
▽グーグルは来ない
マハルジャン氏は、ネパール最大の地図アプリ「ガーリー」の経営者でもある。「グーグルやアップルは商売にならないと来ない。自ら正確な地図を作るしかないと思った」。複雑に路地が入り組む首都カトマンズなどでのグーグルの地図は不正確で、先進国では当たり前のストリートビュー機能もない。地図作成でもドローンを活用した。
マハルジャン氏は「小さな市場だが、われわれには大きな問題だ。地元の知恵を使って地元の問題を解決しなければならない」と話した。