津山恵子のニューヨーク・リポートVol.40 自民党幹部につながる治し難い頑固さ トランプ氏、自分で墓穴を掘る

 

津山恵子のニューヨーク・リポートVol.40

自民党幹部につながる治し難い頑固さ
トランプ氏、自分で墓穴を掘る

 

「移民がペットを食べている」という発言でSNSにはミームが出回った

 

カマラ・ハリス副大統領(59)が、罠に餌を仕掛けて待つ。すると、ドナルド・トランプ被告・元大統領がすかさず餌に食いつき、罠にガチャンとハマる。78歳の男性が、何度も何度も見事に罠の中に入っていく。  

ハリス氏は仕掛けとなる発言をした直後、右手の細い指を顎に当てて、トランプ氏がいる右方向を見て、素晴らしい笑顔を浮かべている。「かかった、かかった」という感じだ。私が9月10日夜、スクリーンで大統領候補討論会を見ていたルーフトップバーでは、彼女が指を顎に当てる度に若い人から笑い声が上がった。  

トランプ氏は、討論会が始まってから30分は真面目な様子で、司会に「(質問を)ありがとう」とまで言っていた。しかし、ハリス氏の最初の罠で、ガラリと下り坂にハマり込んだ。  「視聴者のみなさんは、トランプ氏の選挙集会に行くべきだ。そうすれば、彼が理にかなっていないことばかり言うのを聞かされて、集会が終わる前に人々が退席するのを見られるから」(ハリス氏)  

トランプ氏は、集会の参加者数には「異様な執着心」(バラク・オバマ元大統領)を持っている。「違う。彼女(ハリス氏)こそ、集会の参加者に金を渡して(増やして)いる」と根拠のない発言を繰り出した。  

次にハリス氏は、トランプ氏は「不名誉(disgrace)」「弱い(weak)」という単語を何度も口にした。これらは、トランプ氏が過去に誰かを批判する場合に頻繁に使ってきた単語だ。2016年大統領選挙の際、共和党予備選に出馬していたジェブ・ブッシュ元フロリダ州知事を「弱い」と決めつけた。それを自分に使われて、度を失った。  

繰り返し罠にかかる度に、ありもしない発言が相次いだ。  

「ハリスは、刑務所にいる不法移民にトランスジェンダーの手術をしようとしている」「オハイオ州スプリングフィールドでは、移民が人々のペットを食べている」  

結果はトランプ氏の惨敗。CNNが討論会終了後に発表した緊急世論調査によると、ハリス氏が討論で勝利したとした回答が63%、トランプ氏は37%だった。  

ルーフトップバーで語り合った失業中のトランプ支持者、ライアン・ルポ氏(24)も、CNNの数字が出る前にトランプ氏のパフォーマンスが悪かったことを認めた。  

「彼女は、人々の心にうまく訴えた。でもトランプは今まで多くの記者会見をこなしてきた。そのビデオをハリス陣営は分析して対応できたのだと思う」  

討論会を見た後、自民党の麻生太郎・副総裁や二階俊博・元幹事長などの顔を思い出した。なぜ、あれほどに失言を繰り返すのか理解し難いと思っていたが、どうしても改善できない、治すことができない頑なさ、あるいは頑固さがつきまとうのだろう。  

ただ、墓穴を掘ったトランプ氏は討論会で「敗北」という事実が残った。日本の政治家は、失言があろうが、裏金問題があろうが、「敗北」することはない。 (津山恵子)

津山恵子 プロフィール
ジャーナリスト。専修大文学部「ウェブジャーナリズム論」講師。ザッカーバーグ・フェイスブックCEOやマララさんに単独インタビューし、アエラなどに執筆。共編著に「現代アメリカ政治とメディア」。長崎市平和特派員。元共同通信社記者。

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