まだ見えてこない立ち位置と政策 ハリス大統領誕生なら日本はどうなるのか?(中2)

この記事の初出は2024年8月20日

強いミドルクラスをつくるための生活支援策

 主要メディアや国民の「政策を語れ」という要望を受けて、8月16日、ノースカロライナ州で開かれた選挙集会の演説で、ハリスは初めて経済政策を発表した。
 その経済政策とは、彼女の言葉で言うと「強いミドルクラス(中間層)をつくる」こと。「ミドルクラスが強くなればアメリカは強くなれない。大統領に就任すれば生活コストの引き下げを最優先課題にする」と、彼女は言った。
その具体策として彼女が述べたのは、主に以下の3点。
▼子どもが生まれた最初の1年間に6000ドル(約90万円)の減税を実施する。
▼初めて住宅を購入する世帯には、2万5000ドル(約375万円)の「頭金」を補助する。
▼食料品の価格を不当につり上げている「悪徳業者」に対して、罰則付きの取り締まりを検討する。
 どれもが生活支援策であり、貿易政策やエネルギー政策など経済運営の大方針には触れなかった。そして、トランプの掲げる法人税減税に関しては「彼は億万長者や大企業のために戦っている」と批判し、あらゆる国からの輸入品に一律10%の関税を課すという貿易政策については、「生活必需品に対する事実上の課税だ。消費者の負担が大きくなる」と問題視した。

財源はどうする?ただの左翼ポピュリズムか?

 ハリスが初めて発表した経済政策に関しては、さっそく批判が出た。もし、民主党全国大会でも同じような政策しか述べられなかったとしたら、以下の批判は今後も続くだろう。
 たとえば、子どもが生まれた最初の1年間に6000ドルを減税するという政策に関しては、コロナ禍の渦中で連邦議会が一時的に実施したが延長しなかったもので、目新しさはない。そのうえ、政府の負担額は1兆ドルを超えると試算されている。そんな財源がどこにあるのか? 増税でまかなうのか? という批判だ。
 住宅購入補助金にしても同様である。
 食品価格を不当につり上げている「悪徳業者」の取り締まり強化に関しては、具体的な方法が示されなかったので、言い放しではないかと批判された。また、価格統制につながるので、自由経済の破壊になるとも批判された。
 以上をまとめると、結局はよくありがちな左翼政権によるバラマキである。これは、トランプも同じで、いまや民主党も共和党も選挙となると、大衆受けするポピュリズムに走る。トランプはハリスを「危険なほどリベラル」だと攻撃しているが、自身もまた同じところがある。副大統領候補J・D・ヴァンスにいたっては、これまでのハリスの案よりさらに大規模な税控除政策を支持している。

バイデン政権よりも中小企業、労働者寄り

 バイデン政権を継承するといっても、こうした点から見ると、ハリスはバイデンが重視した大企業より中小企業、そして労働者自身にスポットを当てている。
 それは、2021年2月に副大統領として最初に行った仕事が、中小企業支援策である「給与保護プログラム」(PPP:Paycheck Protection Program)向けのローンを加速するよう、JPモルガン・チェースのCEOジェイミー・ダイモンやバンク・オブ・アメリカのCEOブライアン・モイニハンらに呼び掛けたことで明らかだ。
 ハリスはまた、バイデン政権の学生ローン減免策の推進者の1人であり、子育て控除の拡大などの措置を支持してきた。これらの活動が、今回の経済政策である生活支援策に結びついている。
 政治専門メディアの報道によると、ハリスは法人税率を21%から28%に引き上げることを支持しているという。これは、バイデンが今年3月に公表した2025会計年度(2024年10月-2025年9月)予算教書に完全に合わせた措置だ。
 このようなハリスだが、ウォール街はおしなべて彼女を支持している。それは、彼女がこれまでジェイミー・ダイモンなどのウォール街の有力者と定期的な会合を持ってきたからだという。もっとも、ウォール街は常に、民主、共和のどちらに転んでもいいような献金活動を行ってきている。(つづく)

この続きは9月16日(月)発行の本紙(メルマガ・アプリ・ウェブサイト)に掲載します。 

※本コラムは山田順の同名メールマガジンから本人の了承を得て転載しています。

 

山田順
ジャーナリスト・作家
1952年、神奈川県横浜市生まれ。
立教大学文学部卒業後、1976年光文社入社。「女性自身」編集部、「カッパブックス」編集部を経て、2002年「光文社ペーパーバックス」を創刊し編集長を務める。2010年からフリーランス。現在、作家、ジャーナリストとして取材・執筆活動をしながら、紙書籍と電子書籍の双方をプロデュース中。主な著書に「TBSザ・検証」(1996)、「出版大崩壊」(2011)、「資産フライト」(2011)、「中国の夢は100年たっても実現しない」(2014)、「円安亡国」(2015)など。近著に「米中冷戦 中国必敗の結末」(2019)。

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