「救命艇」で津波から園児100人守り抜け

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共同通信
津波に備えた救命艇型シェルターの前に立つ「さざんかこども園」運営法人理事長の安藤香澄さん(左)=2024年7月、浜松市

 南海トラフ地震の津波による浸水が想定される浜松市中央区の認定こども園「さざんかこども園」には、園児や職員全員を収容する救命艇型シェルター2基が備えられている。運営法人理事長の安藤香澄さん(58)は8月8日の臨時情報発表を受け、シェルターに保管する非常食やおむつの点検など対策を重ねた。「対策に終わりはない」と話す。(共同通信=柳沢希望)

 さざんかこども園は太平洋から数百メートルにあり、0歳から約100人の子どもを預かる。東日本大震災が起きた2011年3月11日、周辺に津波警報を知らせる防災無線が響いた。当時園長だった安藤さんら職員は園児約90人を連れ、園の2階に約3時間とどまった。被害はなかったが、安藤さんは「子どもの命を守れないかもしれない」と恐怖を感じたという。

 震災後、一部の園児は海に近いことを理由に転園。津波対策が十分か、保護者から問い合わせもあった。南海トラフ地震が発生すれば、津波が5分以内に園周辺を襲うと想定されている。近くの5階建てビルまで、園児の足では30分かかり、園舎移転は巨額の費用が見込まれ難しい。「どうしたら全員生き残れるか」と悩んだ安藤さん。たどり着いた答えは救命艇型シェルターだった。

 救命艇メーカー「ニシエフ」(山口県下関市)に製造を依頼。2012年10月にできあがったシェルターは繊維強化プラスチック製で長さ6.5メートル、高さ2.8メートル。1基に大人と子どもを合わせて約60人が乗ることができる。

 強い衝撃に耐えられるよう壁にクッション材を貼り、いすにシートベルトを付けた。漂流に備えて衛星電話や太陽光パネルを設置し、上空から見つけやすいよう外装はオレンジ色に塗った。費用は当時1基当たり約500万円。園の入り口と園庭に置き、園児らと実際に乗り込む避難訓練を月1度必ず実施している。

 昨年11月、東日本大震災の津波で浸水した宮城県多賀城市の保育園を訪れ、地域と連携した対策を学んできた安藤さん。南海トラフ地震の臨時情報を受け、保護者にシェルターへ避難することなどを改めて周知。「避難できても暑さで命が奪われてしまうかもしれない」と猛暑対策を練る。「保護者と園児が安心して通えるよう、対策し続けたい」と語った。

「さざんかこども園」の津波に備えた救命艇型シェルターの内部=2024年7月、浜松市
津波に備えた救命艇型シェルターの内部で、備蓄品を確認する「さざんかこども園」運営法人理事長の安藤香澄さん=2024年7月、浜松市