共同通信
奈良時代に聖武天皇が一時的に都を置いた紫香楽宮跡(滋賀県甲賀市)では5月、紫のラベンダーが満開になり、さわやかな香りが広がった。市や大学、地元住民らが連携し、雑草が生い茂っていた史跡に花を植える活動をスタート。花をめでながら、古都に思いをはせられる新しい観光スポットを目指している。(共同通信=岡田篤弘)
紫香楽宮跡は2000年に宮殿建物跡が発見されるなどしたが、現在発掘は行われていない。市は立命館大や地元自治会とともに、17年ごろから地域活性化のための利用について検討してきた。
ラベンダーは、紫香楽宮の名前から「紫の花の香りを楽しめるように」と着想を得た。根が浅く遺跡を傷つける心配がなく、地域で頻発するシカによる食害のおそれもないことも決め手となった。21年に植え始め、今年5月には史跡の玄関口にあたる地区に約1400株が花を咲かせた。
地元住民でつくる「紫香楽宮跡整備活用実行委員会」事務局長の金谷英三さん(74)は徐々に手応えを感じ始めている。今年は住民を対象に摘み取り体験などを実施し、約150人が参加。楽しむ人々の様子に「地域の憩いの場としての理解も進んできたのではないか」とほほ笑んだ。
来年に向けてさらに200株ほど植栽するほか、ラベンダーの化粧水やアロマオイルを商品化できないか模索。開花時期に規模を広げ、多くの客を集めるイベントも考えている。
市は、史跡公園の整備も進めており、来年春に完成予定だ。当時の宮殿跡に盛り土をし、新たに柱を建てるなど、奈良時代の景観を思い起こすことのできる公園になる。担当者も「地域と一緒になって、この地に日本の都があったことを広く伝えていければ」と意気込む。
金谷さんは「魅力発信のため田畑などにも植栽を広げ、この地をラベンダーの里にしていきたい」と話す。数年後、紫香楽宮跡は紫に染まり、ラベンダーの香りでいっぱいになっているかもしれない。
◎紫香楽宮
平城京(奈良市)で即位した聖武天皇が740年に恭仁京(京都府木津川市)に遷都。離宮として現在の滋賀県甲賀市に紫香楽宮の造営を始め、大仏の建立も計画した。聖武天皇は744年に難波宮(大阪市)に都を移したが、1年足らずで紫香楽宮へ遷都を決めた。紫香楽宮では4カ月ほど政治が行われたが地震などが相次ぎ、平城京に都が戻された。