共同通信
車いすに乗って生活する北海道函館市の木下春菜さん=年齢非公表=がモデルとして活躍している。障害を理由に、いじめや嫌がらせを受けたこともある。ファッションはそんな自分に自信を付けてくれた「心の甲冑(かっちゅう)」。同じように苦しむ人の生きる希望になればと願い、ランウエーを進む。(共同通信=瀬尾遊)
中学1年の夏休み明けの登校中だった。両足が鉛のように重くなるのを感じ、ガードレールにつかまりながら進んだ。ただの疲れだと思ったが、数日間同じような状態が続いた。病院で筋疾患と診断されたものの、原因は今も分からない。
家の外では車いすに乗るようになった。学校では他の生徒から車いすを蹴られ、教員にも「なんで体育の授業に出ないんだ」と理解のない言葉をかけられて、休みがちになった。
高校は進学校を目指していたが通学が難しく、芸術を学ぶ通信制に切り替えた。髪を茶色に染め、教員に「いいじゃん!」と褒められたことが心に残る。このときの「おしゃれは心の甲冑だ」という直感が、今も心の支えだ。
武蔵野美術大(東京)で舞台美術を学び、就職活動をしていた頃、見知らぬ男性がトイレに一緒に入ろうとしてきたり、みだらな言葉をかけられたりした。「障害があるだけで差別や加害をされるなんておかしい」。思いを自分に合った形で発信しようと、4年生の時にモデル活動を始めた。
「モデルとして見られるとき、障害のあるなしは関係ない。自分が他の人と対等なひとりの人間だと実感できる」と木下さん。現在は函館と東京を行き来し、モノトーンを基調とした「モード系」と呼ばれるジャンルの服を着てSNS(交流サイト)を中心に活動している。2023年9月には東京コレクション(楽天ファッション・ウィーク東京)に出演した。
服用する薬の副作用で、中学1年から身長は伸びていない。「障害があるモデルがいても背が低いモデルがいてもいいはず。多様性の幅を広げ、社会を変える力に少しでもなれたらうれしい」と笑った。