トランプ再選は日本にとって悪夢。ハリスのほうが中国に対して強硬になる! (下)

この記事の初出は2024年9月3日

トランプよりバイデンは対中強硬派だった

 では、ハリスの対中政策を検討してみたい。
 まず、日本人が誤解しているのは、バイデンの対中政策がトランプに比べて穏健であるという点だ。じつは、そんなことはなく、トランプ前政権時より、より強硬になっていると言える。
 なによりもバイデン政権は同盟国を巻き込んで対中包囲網を強化した。これはアメリカの世界覇権維持のためにも必要で、中国を次の覇権国にはさせないという意思がはっきりしていた。
 バイデン政権になって、半導体の輸出規制に加え、太陽光パネルや綿花などを扱う中国企業からの輸入を禁止。半導体輸出規制に関しては、日本ばかりか、オランダ、韓国、ドイツまで巻き込んで、同様の措置を取らせた。
 この路線をハリスも継承するのは間違いない。彼女は経済・ビジネスには弱いと思えるが、アメリカの安全保障、アメリカの世界に対する使命、世界覇権の維持という点では、左派だけに明確だ。バイデン以上に中国に強く出る可能性がある。

横須賀基地で「台湾を守る」とスピーチ

  今年2月のミュンヘン安全保障会議で、ハリスは、「アメリカのNATOに対する神聖なコミットメントは鉄壁であり続ける。アメリカが自らを孤立させれば脅威は増大するだけだ」と述べ、欧州諸国を安心させている。
 また、6月に開かれたウクライナ問題を話し合う平和サミットでは、「ロシアに代償を払わせ続ける」と述べている。
 そして、台湾に関しては、2022年9月に安倍晋三元首相の国葬に参列するため来日したおり、横須賀基地を訪れ、ミサイル駆逐艦「ハワード」の船上でスピーチし、台湾を守ることを強調した。
 ハリスは、中国が東シナ海と南シナ海において「憂慮すべき振る舞い」をし、台湾海峡では“挑発行為”に及んでいると非難した。そして、続けて「アメリカは、台湾海峡の平和と安定が自由で開かれたインド太平洋に不可欠な要素だと考えている」と述べたのである。
 このようなことから見えれば、日本の安全保障を考えた場合、トランプよりハリスのほうがはるかに安心ではなかろうか。

検事で人権派の議員だったことと「TPP」

 ハリスの対中政策を考えるとき、もっとも注目すべきは、彼女が民主党左派であるということだろう。しかも、彼女は元検事である。つまり、人権問題、労働問題には、極めて敏感だということだ。
 ハリスは、上院議員時代には、「香港人権民主主義法」と「ウイグル人権政策法」の共同提案者となっている。そして、人権を守らない中国への制裁発動を支持している。
 バイデン政権は、2022年6月、「ウイグル強制労働防止法」に基づき、新疆ウイグル自治区での強制労働に関わった企業からの輸入を禁止する措置を取った。
 さらに、ハリスがトランプとは違うと思われるのは、今年の12月に新たに英国が加わって発行する「TPP」(環太平洋パートナーシップ協定)に加入する可能性があることだ。
 TPPは貿易協定だが、当初から中国の排除(対中包囲網の形成)が念頭に置かれていた。しかし、トランプはこれが理解できず、2017年1月「TPPから永久に離脱する」とした大統領令に署名した。トランプには地政学的な観点はなく、アメリカと当事国の2国間のディールにしか興味がない。

この続きは10月1日(火)発行の本紙(メルマガ・アプリ・ウェブサイト)に掲載します。 

※本コラムは山田順の同名メールマガジンから本人の了承を得て転載しています。

 

山田順
ジャーナリスト・作家
1952年、神奈川県横浜市生まれ。
立教大学文学部卒業後、1976年光文社入社。「女性自身」編集部、「カッパブックス」編集部を経て、2002年「光文社ペーパーバックス」を創刊し編集長を務める。2010年からフリーランス。現在、作家、ジャーナリストとして取材・執筆活動をしながら、紙書籍と電子書籍の双方をプロデュース中。主な著書に「TBSザ・検証」(1996)、「出版大崩壊」(2011)、「資産フライト」(2011)、「中国の夢は100年たっても実現しない」(2014)、「円安亡国」(2015)など。近著に「米中冷戦 中国必敗の結末」(2019)。

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