この記事の初出は2024年9月3日
副大統領候補ウォルズは「親中派」なのか?
ただ、ハリスの対中政策を考える場合、懸念されることがある。副大統領候補ティム・ウォルズの存在だ。これまでの彼の実績を見ると、ウォルズはハリス以上の左派で「極左」と呼ぶメディアもある。
ウォルズは下院議員時代に、労働者寄りの法案を徹底して支持しており、ミネソタ州知事としては、2023年に州内の不法移民に運転免許証を与える法案に署名している。
このようなことから、トランプ陣営は、ウォルズを危険な人物とし、「親中派」で「極左」と言い始めた。ウォルズは、天安門事件が起きた1989年から1990年にかけて、中国広東省で英語教師をしていた経験があることも、問題視されている。
トランプの側近の1人リチャード・グレネル元ドイツ大使は、「中国共産党はウォルズの副大統領候補指名に喜色満面だ」とSNSに投稿した。
しかし、ウォルズが本当に親中派であるかどうかはわからない。それよりも、ハリスの母親が中国とは敵対的なインド出身であることのほうが、私には重要だと思える—-。
対中強硬派エマニュエル駐日大使の政権入り
ハリスの対中政策に関して、もう1人、重要と思われる人物がいる。ラーム・エマニュエル駐日大使である。彼は、生粋の「ドランゴンスレイヤー」の1人として知られ、これまで日本の対中政策に大きな影響を与えてきた。
先日、長崎市が主催した「原爆の日」の平和祈念式典にイスラエルを招待しなかったことを理由に、西側諸国の大使とともに欠席して 一躍“時の人”となったが、彼がハリス政権に入る可能性が高いのである。
共同通信の8月9日の報道によると、エマニュエルは11月下旬に離任する意向を周囲に伝えているとされ、サンクスギビング前後に日本を離れるという。そして、その後はハリス政権が誕生した場合、政権入りするというのだ。
彼はこれまで日本の防衛費増強を強く求め、上院外交委員会のヒアリングなどでは中国の拡張政策を激しく非難してきた。米上院外交委員会は2021年に、「南シナ海・東シナ海制裁法案」を可決している。
米中戦争の本当の敗者は日本になるかも
このように見てくると、トランプが大統領に返り咲くことは、日本にとって、いや世界にとって、とんでもないこと、悪夢ではないか。
トランプ前政権時代は、トランプが中国に対して貿易戦争を吹っかけたため、日本の保守、経済関係者は安心して見物できたが、今度は「巻き添え被害」を被る可能性がある。それを考えると、バイデン政権継承のハリスのほうがましではなかろうか。
中国は2010年、GDPで日本を抜き、現在はアメリカGDPの約3分の2まで迫っている。しかし、そのGDPを支える製造業の技術は、いまだに独自性、先進性を持てていない。そのため「中国製造2025」を掲げて、必死にキャッチアップを図ってきたが、強権・拡張主義が裏目に出て、経済衰退期に入った。
とはいえ、米中戦争の影響を大きく受けるのは日本である。対米貿易で稼ぐ中国の製造業がさらに衰えれば、中国に資本財を輸出して稼いできた日本企業の業績も悪化する。となると、米中戦争の本当の敗者は日本になりかねない。
よって、トランプになろうとハリスになろうと、日本企業は中国デカップリングをさらに早急に進める必要がある。(了)
(今回と同主旨のコラム記事を「Yahoo!エキスパート」欄に寄稿しました)
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山田順
ジャーナリスト・作家
1952年、神奈川県横浜市生まれ。
立教大学文学部卒業後、1976年光文社入社。「女性自身」編集部、「カッパブックス」編集部を経て、2002年「光文社ペーパーバックス」を創刊し編集長を務める。2010年からフリーランス。現在、作家、ジャーナリストとして取材・執筆活動をしながら、紙書籍と電子書籍の双方をプロデュース中。主な著書に「TBSザ・検証」(1996)、「出版大崩壊」(2011)、「資産フライト」(2011)、「中国の夢は100年たっても実現しない」(2014)、「円安亡国」(2015)など。近著に「米中冷戦 中国必敗の結末」(2019)。