「青い州」から「赤い州」へ脱出せよ(1) イーロン・マスクはなぜトランプを支持したのか? (上)

この記事の初出は2024年9月10日

 アメリカの大統領選挙で必ず語られるのが、「青い州」(Blue States:ブルーステート)と「赤い州」(Red States:レッドステート)の違いである。今回の選挙で大きな話題となったイーロン・マスクの民主党から共和党支持への転向、トランプ支持の表明の背景には、この問題がある。
 別に、マスクがトランプを個人的に好きになったわけではない。青い州であるカリフォルニア州の行きすぎたリベラル政策に嫌気がさし、ビジネスの利点も考慮して、赤い州であるテキサス州に脱出することにしただけだ。
「青い州から赤い州への脱出」は、いまアメリカの大きなトレンドになっている。いったい、なぜ、こんなことが起こっているのだろうか?

銃撃事件後トランプ支持を表明したマスク

 7月13日のトランプ銃撃事件後、イーロン・マスクがXではっきりとトランプ支持を表明したことに、驚いた人も多かったと思う。アメリカの大手ハイテック企業のCEOでは誰1人としてトランプ支持を表明した人間はいないうえ、彼らはほぼ民主党支持、トランプ嫌いと思われてきたからだ。(注:ピーター・テイルのみJ.D.ヴァンスを支持している)
 実際、マスク自身もかつては民主党支持者であり、これまでの大統領選挙ではすべて民主党候補(ヒラリー、バイデン)に投票してきた。「それなのになぜ?」と、正直、私も驚いた。
 とはいえ、マスクは今年になってバイデンの再選に反対する意向を示し、共和党支持に転向する姿勢を見せていた。だから、流れから見れば、トランプ支持は当然の成り行きと言えた。
 しかし、世界一の富豪、アメリカの最先端企業の第一人者が、その莫大な資金をトランプにつぎ込むのには、なんとなく納得がいかないのである。
 マスクのトランプ支持表明後、「ウォール・ストリート・ジャーナル」(7月16日)は、マスクが毎月4500万ドルをトランプ陣営に寄付すると報道した。

「性自認法」に反発し本社をテキサスに移転

 トランプ支持表明から数日後、マスクは宇宙開発企業スペースXとX(旧ツイッター)の本社を、カリフォルニア州からテキサス州に移転させることを表明した。
 スペースXはカリフォルニア州ホーソーン(ロサンゼルス近郊)からテキサス州南部ボカチカのスターベイスに移転、Xはサンフランシスコからテキサス州の州都オースティンに移すというのだ。
 マスクは、その理由として、カリフォルニア州の「ジェンダー・アイデンティティ法(性自認法)」(AB957)を挙げた。この法案が、ギャビン・ニューサム知事の署名によって発効することになったために、「堪忍袋の緒が切れた」(This is the final straw.)というのだ。
 イーロン・マスクは以前から、「LGBTQ+」(性的マイノリティ)の権利活動家たちの主張を毛嫌いし、それを容認するリベラル派の政策に反対してきた。

トランスジェンダーで揺れたカリフォルニア

 カリフォルニア州における「ジェンダー教育」は、小学校から始まる。子どもたちは幼いうちから「トランスジェンダー」(Transgender:生まれたときの身体的な性別と自身で認識する性が一致しないこと)を教わり、自分の意思でジェンダーを選択できるとしている。
 そして、もしトランスジェンダーを選択した場合、学校は「子どもにとって安全な場所である」という理由で、それを保護者(親)に秘密にできるというのが、今回の法案の主旨だった。
 カリフォルニア州の保守的な学区では、従来、子どもが自身の名前や代名詞を変更した場合(男性名から女性名かその逆の女性名から男性名、HeからSheかその逆のSheからHe)、または、ジェンダーが異なる施設の利用やプログラムへの参加を希望した場合、教師は保護者への通知が義務付けられていた。ところが、この法案により、この義務がなくなってしまったのである。
 アメリカ各州では、ここ数年、学校は子どもの性自認について親になにを伝えるべきかが大きな議論になってきた。「LGBTQ+」の権利を訴える活動家たちは、子どもたちにはプライバシーの権利があると主張する。しかし、その一方で、親には当然のこととして、自分の子どもになにが起こっているかを知る権利があるとする人々がいる。イーロン・マスクはこちら側だ。
 ただ、カリフォルニア州においては、前者の主張が通ったというわけである。(つづく)


この続きは10月3日(木)発行の本紙(メルマガ・アプリ・ウェブサイト)に掲載します。 

※本コラムは山田順の同名メールマガジンから本人の了承を得て転載しています。

 

山田順
ジャーナリスト・作家
1952年、神奈川県横浜市生まれ。
立教大学文学部卒業後、1976年光文社入社。「女性自身」編集部、「カッパブックス」編集部を経て、2002年「光文社ペーパーバックス」を創刊し編集長を務める。2010年からフリーランス。現在、作家、ジャーナリストとして取材・執筆活動をしながら、紙書籍と電子書籍の双方をプロデュース中。主な著書に「TBSザ・検証」(1996)、「出版大崩壊」(2011)、「資産フライト」(2011)、「中国の夢は100年たっても実現しない」(2014)、「円安亡国」(2015)など。近著に「米中冷戦 中国必敗の結末」(2019)。

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