共同通信

京都府木津川市の田んぼが広がる一帯の一軒家に、薬物依存者の回復施設がある。「木津川ダルク」代表の加藤武士さん(58)は自身も依存症に苦しんだ経験を持つ。回復を目指す入寮者たちと互いの過去を分かち合いながら、寄り添い支えている。
京都市生まれの加藤さんは母親の妊娠中に父親が失踪、生後6カ月で里親の元へ。夏休みなどの時だけ一緒に過ごした母に、父のいない寂しさを打ち明けると嫌な顔をされた。「心のよりどころがなく、本当の気持ちを取り繕うピエロのような人間になっていった」
18歳の時、職場同僚の誘いで大麻に手を出し、覚醒剤も使った。入退院を繰り返した後、依存症治療に積極的な医師に勧められ27歳でダルクに出会う。1年間薬物を断つも生活は良くならず、自殺未遂を起こした。
入院先の医師からは「よく今日まで生きてきたね」と優しい言葉をかけられた。理解してくれる人がいることに救われた。「簡単には死ねない。それなら今日一日を誠実に過ごそう」と考え方が逆転。徐々にダルクのプログラムになじみ、回復の道を歩み始めた。
2000年、依存症は回復できると社会に知ってもらうためダルク職員になった。13年には退職金や貯金をはたいて木津川ダルクを設立した。
現在入寮中の8人はアルコールやギャンブル、薬物の依存症に苦しむ。加藤さんや職員として働く回復者が支えている。
1日3回のミーティングは毎回テーマを決め語り合う。互いを批判せず、経験を共有することで自身の過去を冷静に振り返ることができるからだ。食事メニューや共同生活ルールは入寮者同士が話し合って決める。加藤さんは「自分を出して(他者と)折り合いをつけることで、社会で生きる力が身につく」と話す。
依存症に完治はなく、加藤さん自身も回復の途上だ。時にはトラブルが起きて辞めたくなることもある。それでも「支えになるのは自分の経験や仲間とのつながり。そういう目に見えないものなんです」と前を向く。



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