この記事の初出は2024年9月17日
センテナリアンは「寝たきり」か「認知症」
さて、ここからが本題だが、メディアの長寿礼賛報道は、センテナリアンおよび長寿者の現実をあえて隠してしまっている。
メディアに登場するのはセンテナリアンのなかでも、元気に暮らしている人々である。しかし、それはセンテナリアンの一部であり、ほとんどのセンテナリアンは、不健康な人々なのである。
具体的には「寝たきり」や「認知症」で、日常生活を介護なしには送れない人々が圧倒的に多い。これが、センテナリアンの本当の姿だ。
私は60代後半で、2回、大病(水腎症で後腹膜線維症の手術、心筋梗塞で冠動脈バイパス手術)をし、以来、懇意にさせてもらっている医師の話に真剣に耳を傾けるようになった。
その医師は「老い」に関する著作もあり、また、老人施設のアドバイザーもしていて、そこで老いの現実をこれでもかと見てきている。また、死亡診断書も、これまで何百通も書いている。
彼が言う老いとは、次のようなものだ。
「一般的に人間、80歳を超えると、食事をする、トイレに行く、寝るなど、みな、ある程度の努力なしではできなくなくなります。だから、100歳で自分の力で暮らせるなどというのは例外中の例外。私が施設の現場で診ている90歳超えの人たちは、ほぼみな介護なしでは暮らせませんよ」
「脳」と「筋力」の衰えは避けられない
懇意にさせてもらっている医師の話を、以下、続ける。
「老化に関しては、2つのことが避けられません。一つは脳の衰え、すなわち認知症。もう一つは筋力の衰えです。 まず、認知症ですが、65歳以上の高齢者全体では約17~18%が認知症と推計されています。
年齢が高いほど認知症である人の割合は高くなります。85~89歳では約40%、90歳以上では約60%の方が認知症です。したがって、センテナリアンのうちの約70%は間違いなく認知症でしょう」
「80歳、90歳を過ぎて認知症の症状が進むと、家族の顔もまったくわからなくなり、ついには食べ物を食べ物と認識することさえできず、自力では食べられなくなります。センテナリアンの介護は、この点で大変で、あくどい施設となると、ほぼほったらかしです」
「次に筋力の衰えですが、加齢に伴い筋肉量は40歳くらいから低下します。これを、筋肉を構成する筋繊維で見ると、その数は20歳代に比べ80歳代で半減します。加齢に伴って脆弱になった筋肉をサルコペニアと言い、これが、高齢者の転倒や寝たきりの原因になるんです」
「センテナリアンは例外的に、筋肉の衰えが少なかった人たちですが、それでも助けなしにちゃんと歩ける人は希でしょう。そして、100歳を超えると、圧倒的に低下するのが、視力と聴力です」
終末期における「延命治療」は絶対拒否
このような現実を知って、それでもあなたは長寿を望むだろうか? 脳、筋力とも衰え、介護が必要になったとき、どうするか? そして最終的に、終末期の延命治療を受けざるを得なくなったときどうするか?
私はすでに決めている。
母が認知症で最終的に施設に入れざるを得なくなり、そこで「看取り」までしてもらった経験から、私は無駄な延命治療だけは絶対に拒否する。終末期は、必要なら「緩和ケア」だけにし、“最期の時”を迎えたいと思っている。
現代人の死に方として理想とされるのは、たとえば心筋梗塞などで一発で逝く「ピンピンコロリ」である。しかし、こうなるのはごく一部の人間だけで、一発で逝かないと重篤な後遺症が残り、「寝たきり」になって延命治療を受けることになる場合が多い。また、がんを患った場合も、終末期には延命治療を受けることになる。
延命治療を具体的に言うと、「気管切開」「胃ろう」「昇圧剤」「輸液」「中心静脈栄養」「人工呼吸器」である。これらの治療が必要になったときは、それはもう単に生かされるだけで、回復はあり得ない。しかし、医者はこれを行なおうとする。
「緩和ケア」と「看取り」はどう違うのか?
最近は、患者の意思を確認する「人生会議」(ACP:アドバンスケア・ プランニング、終末期治療をどこまで受けるかの意思確認)などの取り組みにより、無駄な延命治療は減ってきた。しかし、実際は、いまも濃厚な終末期治療、いわゆる延命治療が行われている。
どちらも終末期に行われるため、「緩和ケア」と「看取り」はどう違うのかと言われることが多い。これは、「緩和ケア」は医療であり、「看取り」は、医学的なアプローチによる治療というより、死を前にした「介護」ということで区別される。
したがって、終末期の「緩和ケア」は主に病院の緩和ケア病床、慢性期の療養病床となるが、「看取り」は、主に介護施設、老人ホームなどで行われる。
ただし、現在、緩和ケア病棟は圧倒的に少なく、順番待ちである。
最近は、自宅で看取りケアを受けるケースも多くなった。私の友人は、先ごろ、肺がんで終末期となり、在宅看取りでなくなった。
ただし、在宅での看取りには、介護支援専門員、医師、訪問看護師、訪問介護員、薬剤師などのサポート体制が必要で、現在、実施している医療機関は全医療機関の10%に満たない。(つづく)
この続きは10月25日(金)発行の本紙(メルマガ・アプリ・ウェブサイト)に掲載します。
※本コラムは山田順の同名メールマガジンから本人の了承を得て転載しています。
山田順
ジャーナリスト・作家
1952年、神奈川県横浜市生まれ。
立教大学文学部卒業後、1976年光文社入社。「女性自身」編集部、「カッパブックス」編集部を経て、2002年「光文社ペーパーバックス」を創刊し編集長を務める。2010年からフリーランス。現在、作家、ジャーナリストとして取材・執筆活動をしながら、紙書籍と電子書籍の双方をプロデュース中。主な著書に「TBSザ・検証」(1996)、「出版大崩壊」(2011)、「資産フライト」(2011)、「中国の夢は100年たっても実現しない」(2014)、「円安亡国」(2015)など。近著に「米中冷戦 中国必敗の結末」(2019)。