第12回 ニューヨーク アートローグ 見逃せない今秋の展覧会編 ダリのパビリオン、バスキアの観覧車にヘリングのメリーゴーランド!?伝説の遊園地がやって来る

 

第12回 ニューヨーク アートローグ

見逃せない今秋の展覧会編

ダリのパビリオン、バスキアの観覧車に
ヘリングのメリーゴーランド!?
伝説の遊園地がやって来る

Luna Luna: Forgotten Fantasy 
「ルナルナ:忘れられたファンタジー」展
期間:11月20日〜
場所:ザ・シェッド(The Shed)
https://www.theshed.org

 

Aerial view of Luna Luna in Moorweide park. Hamburg,Germany,1987.Photo:©Sabina Sarnitz. Courtesy Luna Luna,LLC

『ルナルナ』は、ウィーンの芸術家アンドレ・ヘラー (1947年生まれ) が、 サルバドール・ダリ、 ヨーゼフ・ボイス、 ロイ・リキテンシュタイン、ジャン=ミシェル・バスキア、キース・ヘリングなどなど、 名だたるアーティストたちを集めて考案した世界初のアートによる移動遊園地だ。ヘラーは、 アートは全ての人のためにあり、一般大衆とのギャップを埋めることを目指した。年齢や人種、宗教を超えて誰もが純粋に楽しめる遊園地が美術機関と同じ価値があると考えたのだ。

ドイツのハンブルクに誕生したのは1987年のこと。実はハンブルグはかつて第二次世界大戦中にユダヤ人を強制収容所へ送るための地だった。そしてカーニバルは、7週間にわたる大盛況を経て閉幕。アーティストたちによる乗り物や装置はその後貨物コンテナに詰められ、はるかテキサスの倉庫に送られて眠っていた。それから37年間忘れ去られていたのだが、2024年2月にロサンジェルスで蘇ったのである。この企画をレスキューしたのはラッパーのドレイク。なんと100ミリオンドルを投じたのだ。 「初めて『ルナ・ルナ』のことを知り、 心から驚きました。アートを通して隔たりなく人々を結びつけるという構想は、今私たちが最も大切にしなければならないこと。素晴らしいチャンスです。 」とドレイクは声明で述べている。

11月にはついにニューヨークのザ・シェッドで開催されることになった。展示される乗り物は、 あくまで観賞用だが、 デイヴィッド・ホックニーの没入型空間や、キース・ヘリングやケニー・シャーフのカラフルで愉快なキャラクターで覆いつくしたメリーゴーランド、 「ダリドーム」なるサルバドール・ダリのミラー館や目玉焼きのオブジェで装飾した楽しい迷路など、見ているだけでファンタジーの世界に引き込まれることだろう。

またジャン=ミシェル・バスキアの絵画で埋め尽くされ、マイルス・デイビスの音楽に合わせて回転する古い観覧車も見所の一つだ。当時このカーニバルにどれほど多くの人々が酔いしれたことだろう。『ルナルナ』に込められた夢は現代に引き継がれた。

 

Visitors ride Keith Haring’s painted carousel. Luna Luna, Hamburg, Germany, 1987. © Keith Haring Foundation/licensed by Artestar, New York. Photo: ©Sabina Sarnitz . Courtesy Luna Luna, LLC

 

こちらも見逃せない

The Brooklyn Artists Exhibition 
「ブルックリンのアーティスト」展
期間:10月4日〜2025年1月26日
場所:ブルックリン美術館(Brooklyn Museum)
https://www.brooklynmuseum.org/exhibitions

これはブルックリン美術館の200周年記念を祝い、過去5年間(2019年~2024年)にブルックリンに在住か制作拠点にしたアーティスト約200人以上が集結したブルックリン色を照らし出す展覧会。多様性に富むダイナミックな現在、 歴史ある過去、 そしてコミュニティーの未来を称える。

ジェフリー・ギブソン、ヴィック・ムニーズ、 ミカリーン・トーマス、 フレッド・トマセリといった著名なアーティストが率いる委員会によって選出されたアーティストたちのドローイングや絵画、彫刻、ビデオ、インスタレーションまで、活気ある作品を通して、移住と記憶、アイデンティティと歴史、不確実性と混乱、 癒しと喜びなど、 地域的にも世界的にも共鳴するテーマが啓示された。唯一無二のブルックリンアートを感じてみたい。

 

Edges of Ailey
「エッジス・オブ・エイリー」展
場所:ホイットニー美術館(Whitney Museum of American Art)
期間:9月25日〜2025年2月9日
https://whitney.org/exhibitions/edges-of-ailey

アルヴィン・エイリー (1931年テキサス州生まれ、1989年ニューヨーク没)といえば、アフリカン・アメリカンの文化に根ざし独自の振付けと表現力が評判のダンスカンパニー。ホイットニー美術館での展覧会は、 視覚芸術、ライブパフォーマンス、音楽、アーカイブ資料、そしてアルヴィン・エイリー・アメリカン・ダンス・シアター(AAADT)のレパートリーの記録と、バスキア、カラ・ウォーカーをはじめ80人以上のアーティストによるマルチスクリーン・ビデオインスタレーションと多様な作品群が一堂に会し、エイリーの創造的な人生の全容を探る。

展覧会期間中、毎月1週間エイリー・ダンス・カンパニーのパフォーマンスが披露される。革新的なキャリアと、ダンスの世界にもたらした文化的・社会的な影響を反映。ダンスを美術展で体感する新しい試みで、見応えのある展覧会だ。

 

Edge of Ailey 展覧会風景 (筆者撮影)
Photo by Kouichi Nakazawa

梁瀬 薫(やなせ・かおる)
国際美術評論家連盟米国支部(Association of International Art Critics USA )美術評論家/ 展覧会プロデューサー 1986年ニューヨーク近代美術館(MOMA)のプロジェクトでNYへ渡る。コンテンポラリーアートを軸に数々のメディアに寄稿。コンサルティング、展覧会企画とプロデュースなど幅広く活動。2007年中村キース・ヘリング美術館の顧問就任。 2015年NY能ソサエティーのバイスプレジデント就任。

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