津山恵子のニューヨーク・リポートVol.43 「男子よ、タンポンのこと知ってる?」 大統領候補がポッドキャストにはまる

 

津山恵子のニューヨーク・リポートVol.43

「男子よ、タンポンのこと知ってる?」 
大統領候補がポッドキャストにはまる

 

現職副大統領にパーカー姿で話すクーパー。ポッドキャスターとしての収入は女性でトップだ(CHDのYouTubeからスクリーンショット)

 

米大統領選挙で、カマラ・ハリス副大統領・民主党候補がポッドキャストに次々と出演している。「35歳以下の若い女性」「スポーツ好きな黒人男性」などと、テレビなど主要メディアとは疎遠な特定の有権者層にリーチできるからだ。しかし、ポッドキャストは、インフルエンサーの個性が強く出るため、かなり「刺激的な」内容も話題となっている。  

ハリスが最初に登場したのは、金髪女性アレックス・クーパー(30)の「Call Her Daddy(以下CHD)」。1話当たり1000万回もの再生があり、オーディエンスの7割が女性で、通常は異性関係やセックスについてラフにゲストと話す。クーパーは、子どもを産むか産まないかなど女性が身体や性に関することは自分で決めて、守れる権利「リプロダクティブ・ライツ」、具体的には人工妊娠中絶を受ける権利について、ハリスに聞き始めた。  

クーパー「フォロワーの女の子たちが、道端で男性に話しかけて『タンポンってどこに使うのか知ってる?私たちが何個ぐらいタンポンを使うか知ってる?そもそも、なぜ使うのかさえ、知ってる?てか、XとかYとかZとかが私たちの(一部)だって分かってる?』と聞いているのがTikTokにあって。それで、男性は答えを知らないわけ」 ハリス「実は私は、歴代副大統領・大統領の中で初めてリプロダクティブ・ヘルスのクリニックに訪問したんです」 クーパー「マジ?」  

人工妊娠中絶、強いては女性の身体について知識がないドナルド・トランプ前大統領・共和党候補や保守派の男性を強烈に揶揄したくだりだ。テレビでは聞けないやりとりだろう。日本と異なり、人工妊娠中絶を禁止している州が20もあるアメリカ。中絶の権利に敏感な女子に刺さりそうな内容だ。

もう一つのポッドキャストは、2人の黒人NBAプレーヤーが手掛ける「All the Smoke」だ。ここで、ハリスは嗜好用大麻(マリファナ)合法化について、初めて発言した。連邦レベルの合法化は、バイデン大統領の政策よりも一歩踏み込んでいる。

「葉っぱをやったからって、監獄に入れられるべきではないです」とハリス。黒人選手2人は即座に「イヤー、イヤー」と笑顔で同意した。大麻が合法化されている州は増えているものの、違法とされる州で逮捕されるのは黒人が圧倒的に多いという背景がある。

日本では根づいていないポッドキャストだが、アメリカでは人気が急上昇だ。米調査会社エディソン・リサーチによると、12歳以上の市民の67%がポッドキャストを聞いたことがある。広告主や代理店も注目している。

ただ、嘘や偽情報が広まる危険性も秘めている。何かと問題があるYouTuberのローガン・ポールのショーに出たトランプ氏は、データもないのに「バイデンは、歴史上最悪の大統領だ」とまくしたてた。新たなメディアは常に「諸刃の刃」を持っている。
(敬称略、文 津山恵子)

津山恵子 プロフィール
ジャーナリスト。専修大文学部「ウェブジャーナリズム論」講師。ザッカーバーグ・フェイスブックCEOやマララさんに単独インタビューし、アエラなどに執筆。共編著に「現代アメリカ政治とメディア」。長崎市平和特派員。元共同通信社記者。

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