第13回 教えて、榊原先生!
日米生活で気になる経済を専門家に質問
2025年の為替レートはどうなる?
Q. 2024年は「円安」と言われ続けた年となりましたが、2025年の為替レートはどのように動いていく見通しですか?そろそろ海外旅行に行きたいです。
今年は、年初にUS$1=141円ほどでスタートした為替レートが7月初にはいったん160円を上回るまでの大幅な円安が進行した後、中旬には急に切り返して速い円高方向への動きとなり、10 月初には年初の水準まで戻しました。それがまた、足元は150円近傍という激しい変化が生じています。円安進行中は日本国内で物価高が問題視されると同時に、海外旅行の割高感が非常に強まっていました。いったんは円高への反転があり、日本から米国への渡航タイミングを見計らっている方も少なくないのではと想像します。
来年に向けてドル円レートはどう動くのか。為替レートは、マクロ政策動向はもちろん、政治的な発言等にも影響を受けて方向感が変わり得ますから、政権選挙に際して不透明感が高まります。米国で大統領選を控えている一方、日本ではまさに政権の引き継ぎ(首相の交代)がありました。自民党の総裁選挙に前後してドル円レートや日本株市場が乱高下したのは、この不透明感が作用したと思われます。
石破政権の歩みはドル円レートへどのような影響を及ぼすでしょう。新首相から10月27日に総選挙実施の方針が示されており、不透明だと言わざるを得ません。石破氏のこれまでの政策選好の傾向的発言が衆院選挙公約にどれほど反映されるか、また、選挙の結果如何で路線変更はないのかなど確認の必要があります。就任後、すでに総選挙実施のタイミングについて野党から「公約破り」と言われ、また過去の主張に触れず避けたような論点もあり、宗主替えの余地もある印象を残しました。
不透明ながらに、もし石破首相が自らのこれまでの発言に沿った政策を実施していくと仮定するなら、大筋としてはアベノミクスの巻き戻し、すなわち、マクロ政策的には引き締め方向になるとの想定になります。アベノミクスで進められた「大胆な金融政策」について、正常化への修正に反対せず、日銀の利上げを許容するだろうと(もっとも、先日「その環境にない」との発言がありました) 。 「機動的な財政政策」に関しても、財政健全化を推し進めたい考えが示されていて、消費税や金融所得課税、その他の増税などを通じた緊縮路線を採る公算が取りざたされています(ちょっと難しい話ですが、筆者は現状の日本経済では緊縮財政政策が財政収支の好転につながらないと考えています) 。こうした政策は一般的に円高方向を促す内容です。
ドル円レートの先行きは、①米国金利の動き(景気と政策のバランス) 、②石破政権のマクロ政策(財政の方向性や日銀による金利正常化への許容度) 、③米国大統領の米ドルに対する姿勢が大きな材料になると思われます。仮に①が徐々に低下、②がやや引き締め、③がニュートラルというような前提であれば少し円高水準になるのと整合的で、今年よりは日本からの海外旅行が多少はしやすくなるかもしれません。
ただ、引き締め型政策も顕著な円高も今の日本経済にとってマイナスでしかなく、景気に強い負荷がかかるのは必至。それは政策路線の変更を余儀なくされるのではないでしょうか。今のところは上記の前提も不確かで、両国において政策の変動余地が小さくない局面です。選挙後の動向に注目しましょう。
先生/榊原可人(さかきばら・よしと)
SInvestment Excellence Japan LLC のマネージング・パートナー。主にファンド商品の投資仲介業務に従事。近畿大学非常勤講師(「国際経済」と「ビジネスモデル」を講義)。以前は、米系大手投資銀行でエコノミストを務めた後、JPモルガン・アセット・マネジメントで日本株やマルチアセット運用業務などに携わる。