餌のユーカリ栽培にお見合いも

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共同通信
園内で展示されているコアラの「りん」(下)から生まれた雄の「もなか」=8月、名古屋市の東山動植物園

 日本の動物園でコアラの飼育が始まってから、10月で40年。生息地のオーストラリアでは絶滅の危機にひんし、すみかとなる森林保全などが喫緊の課題となっている。国内で初めてコアラの繁殖に成功した名古屋市の東山動植物園は、餌のユーカリ栽培や、園の垣根を越えた“お見合い”により繁殖を促す取り組みに力を入れ、コアラ飼育の先進地として知られる。(共同通信・河合晴香)

 国内でのコアラの飼育は1984年10月、シドニーの動物園から多摩動物公園(東京都日野市)と東山動植物園、平川動物公園(鹿児島市)にそれぞれ2匹ずつ寄贈されたのが始まり。1990年代後半には国内で約100匹が飼育されていたが、高齢化が進み半減した。オーストラリアでも森林火災や伐採などで大幅に減少し、飼育下での繁殖の重要性は増している。

 東山動植物園では、昨年生まれたばかりの雄「もなか」など10匹を展示。コアラを16年担当してきた飼育員の伊東英樹さんは「とにかく生かすのが難しい動物」と打ち明ける。栄養価が低いユーカリのみを食べる特殊性に加え、繊細なためストレスによる病気のリスクも高い。繁殖に成功しても、生まれた子が母親の袋から落ちる事故も起きている。

 「ユーカリを十分確保できず、積極的に繁殖させられないと悩む園も多い」と伊東さん。餌の安定供給を目指し、同園はユーカリの栽培に取り組んでいる。植え付けから納品までを担当する専属スタッフを配置し、市内の公園のビニールハウスや露地で約30種を育てる。40年前にコアラを迎え入れる前、名古屋で栽培したユーカリをオーストラリアに持ち込み、コアラに食べてもらえるか実験で確認したという。

 全国からコアラの飼育担当者が集まる通称「コアラ会議」にも積極的に参加している。日本動物園水族館協会が主催し、繁殖が見込めるカップリングを選定して移動を決めたり、飼育の課題を共有したりする会議で、年に1度開催。東山動植物園は毎年数匹を他園に派遣し、繁殖に貢献している。

 コアラは騒音が苦手なため、東山動植物園では現在、ガラス張りの室内で飼育されている。伊東さんは「今後数に余裕ができたら、交代で屋外の展示スペースに移動させたい。コアラの自然界での生活に近い姿を、より近くで見てもらえるようにできれば」と語った。