この記事の初出は2024年10月8日
日本は世界で3番目に高いAIの影響を受ける
ホワイトカラー職ばかりではない。いまや、AI教師、AI弁護士、AIインストラクター、AIアナリスト、AIシナリオライター、AI作家、AI歌手などが登場し、プロフェッショナルからアーティストまで、AIが人間を駆逐している。
アメリカのレイオフ関連データを提供しているサイト
「Layoffs.fyi」によれば、テック業界だけに限っても、2023年には20万人以上がレイオフされた。世界的にプロフェッショナルの雇用は減少傾向になっていて、アメリカでは2023年前半だけで、求人数が50万件以上減ったという。
やや古いレポートだが、2023年3月にゴールドマンサックスが公表したレポートでは、AIの影響により、全世界で3億もの仕事が消滅または減少する可能性があるとされた。このレポートは、AIによる自動化の影響度を国別に推計しており、日本は世界で3番目に高い影響を受ける国になっている。
しかし、私は、こうした「AIが仕事を奪う」「AI導入で失業者が増える」という見方に、最近は懐疑的になっている。
自動化で生まれた時間でほかの仕事をする
AIがなんでもかんでもやってくれる世界では、たしかに「AIが働いてくれる」ので人間は不要になる。しかし、それはその仕事に関してだけで、人はほかの仕事を見つけて働き続けると、私は思う。
なぜか? それは、人間の欲望が限りないからだ。ベーシックインカムが導入され、働かなくても最低限の生活が保障されたとしても人間は働くと思う。貧富の格差があるかぎり、人は働いて収入を得て、自分の好きなモノ、サービスを買ってより豊かになろうとするはずだからだ。
現在、多くの労働者が、AIの自動化によって大なり小なりの影響を受ける職種に就いて働いている。そのため、AIとロボットによる自動化が進めば、その分、生まれた時間ができる。この時間を、人は別の生産的かつ創造的な労働を行うのではないだろうか。
欲望資本主義では「過剰生産」は起こらない
それにAIとロボットがなんでもしてくれるとしても、そのAIとロボットは誰がメインテナスするのか? また、AIとロボットはどんどん進化するので、最新モデルを買うためには、働き続けなければならない。AIは「AGI」「ASI」と進化していくが、その進化をつくりだすのは人間の働きだ。
さらに、AIとロボットは独立して存在するのではなく、誰かの所有物である。となると、クルマと同じで最新モデルをつくる、あるいは買うために、人は必死で働く。
カール・マルクスは19世紀半ばに、「資本主義は生産過剰に陥っている」として、資本主義を否定した。しかし、それから2世紀が立っても世界は過剰生産に陥っていない。次々と新しい技術が開発され、新しいモノとサービが生み出され続けている。
それは、人間の欲望が限りないからであり、この欲望が資本主義のエネルギーとなってエンドレスな経済拡張が続いてきたのだ。
いまや人間の欲望は地球を飛び出し、「月に行きたい」「火星に行きたい」となっているから、生産過剰は起こらない。人はAIとロボットができない分野で働き続ける。(つづく)
この続きは11月8日(金)発行の本紙(メルマガ・アプリ・ウェブサイト)に掲載します。
※本コラムは山田順の同名メールマガジンから本人の了承を得て転載しています。
山田順
ジャーナリスト・作家
1952年、神奈川県横浜市生まれ。
立教大学文学部卒業後、1976年光文社入社。「女性自身」編集部、「カッパブックス」編集部を経て、2002年「光文社ペーパーバックス」を創刊し編集長を務める。2010年からフリーランス。現在、作家、ジャーナリストとして取材・執筆活動をしながら、紙書籍と電子書籍の双方をプロデュース中。主な著書に「TBSザ・検証」(1996)、「出版大崩壊」(2011)、「資産フライト」(2011)、「中国の夢は100年たっても実現しない」(2014)、「円安亡国」(2015)など。近著に「米中冷戦 中国必敗の結末」(2019)。