この記事の初出は2024年10月8日
イーロン・マスクが語った未来とは?
2024年5月、イーロン・マスクは、フランス・パリで開催された「VIVA TECHNOLOGY 2024」にリモート出演し、AIが人間の仕事を奪う未来について語った。
「いいシナリオとしては、人間はもう誰も仕事をしなくてもよくなる。でも、このシナリオでは、ユニバーサルベーシックインカムではなくて、ユニバーサルハイインカムが必要になる。モノやサービスの不足は起こらないと思う」
「コンピュータとロボットがあなたたちよりすべてのことをもっと上手くこなせるなら、あなたの人生に意味があるだろうか? 未来のいいほうのシナリオで起こる本当の問題はそっちになるだろう」
たしかに彼の言うとおりである。
AIやロボットが働いてくれるおかげで、仕事がなくなっても生活が保証される。そうした世界が来たとしても、それははたしてユートピアだろうか?
そのような未来で問われるのは、人間が目的を失うという実存的な問題である。
AIが人間と合体する『攻殻機動隊』の未来図
世界中の多くのエンジニア、学者たちが「Human AI Integration」(人間とAIの合体)の未来図を描いている。この未来図では、AIは人間の脳に埋め込まれ、人間は「Post Human」(ポストヒューマン:超人間)となって、知力も体力も拡張する。
簡単に言うと『攻殻機動隊』の世界がやってくる。
イーロン・マスクは、2016年にニューラリンク社を共同設立し、人間がスマートデバイスと直接繋がれるようにする脳直結のインターフェースの開発に取り組んできた。2024年1月、ニューラリンク社は初めて人の脳にチップを埋め込む手術を行ったことを公表した。
脳とコンピュータを繋ぐインターフェースは、アメリカ軍や多くの大学、研究機関においても研究・開発が行われている。日本でも東大などが行っている。
イーロン・マスクの未来図は、スコットランドのSF作家イアン・バンクスの作品『ザ・カルチャー』シリーズに基づいている。そう本人が述べている。
「ザ・カルチャー」(the Culture)というのは、人類やエイリアン、AIロボットなどが並列に共存する理想郷的な宇宙文明圏のことだという。
日本語訳本がないので私は読んだことがないから、解説記事からの押し売りだが、この文明圏では、人間はAIとロボットにより完全に労働から解放され、娯楽や享楽に生きている。
AIが暴走したら電源を切ればいい
はたしてどのような未来が、やってくるのだろうか?人生の後半戦を生きている私には確かめようながない。
ただ、最初に述べたような「人類滅亡シナリオ」は、可能性が薄いだろう。可能性があるとしても、その手前で人間は回避する手立てをつくるだろう。
いま私が思うのは、AIには絶対できないことがあるということだ。AIは、小説も書けるし、絵も描けるし、曲もつくれるが、それは人間が過去にしてきたことを学んだからである。
よって、生(ナマ)の体験に基づく作品はできない。人間社会のなか、あるいは自然のなかで、目で見、耳で聞き、足で歩き体験したものは、人間にしかできようがない。
最後にグーグルの元CEOのエリック・シュミットが言ったことを述べて、この記事の終わりとしたい。
彼は、AIがもし暴走したとしても解決策は簡単、「AIの電源プラグを外せばいい」と言ったのである。
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山田順
ジャーナリスト・作家
1952年、神奈川県横浜市生まれ。
立教大学文学部卒業後、1976年光文社入社。「女性自身」編集部、「カッパブックス」編集部を経て、2002年「光文社ペーパーバックス」を創刊し編集長を務める。2010年からフリーランス。現在、作家、ジャーナリストとして取材・執筆活動をしながら、紙書籍と電子書籍の双方をプロデュース中。主な著書に「TBSザ・検証」(1996)、「出版大崩壊」(2011)、「資産フライト」(2011)、「中国の夢は100年たっても実現しない」(2014)、「円安亡国」(2015)など。近著に「米中冷戦 中国必敗の結末」(2019)。