この記事の初出は2024年10月22日
国家目標である5%成長未達でも問題なし
10月18日の国家統計局の発表を、新華社通信(中国国営メディア)は、「中国経済、1〜9月は全体的に安定」と報道した。また、今後「劇的に上向く」という中国国家統計局の盛来運(せい・らいうん)副局長のコメントが添えられていた。
中国はこれまで、ことあるごとに景気刺激策を繰り返してきている。したがって、今後また大規模な財政出動が見込まれているため、このような自信のコメントが出たのだろう。
しかし、日本のメディアの報道は厳しい。英米メディアも同じだ。
「中国7~9月GDP、4.6%成長に減速 不動産不況で消費伸び悩み」(朝日新聞)「飲食業界が総崩れ 投資、不動産も…中国経済、成長率5%へ正念場」(毎日新聞)、「中国はデフレ回避へ財政出動を急げ」(日経新聞、社説)など、
いずれも、明るい見通しなど微塵もない。
ただし、すでに中国が今年の国家目標5%成長を達成できないのは、早くから予想されていた。ブルームバーグも9月の時点で「中国経済の低迷続く、通年目標の達成困難か-習氏は未達容認との見方」という記事を配信している。ここでのポイントは、習近平が目標未達でも構わないとしていることだ。
つまり、習近平は経済成長が減速しても問題ない。中国は確実に覇権国になると、自信を持っていると考えられる。
不動産バブル崩壊を本気で助ける気がない北京
中国経済の足を引っ張っているのは、言うまでもなく不動産バブルの崩壊による不動産不況、それに伴う消費不況である。そのため、いまの中国はかつての日本と同じようなデフレに陥っている。これは確かだ。
直近の中国不動市場を見ると、今年のこれまでの住宅販売は昨年に比べて27%も減少している。そのため、中国の主要3都市(北京、上海、深圳)は、9月末に住宅ローンの頭金の最低比率の引き下げなどを実施し、なんとかこれ以上の落ち込みを防ごうとしている。
しかし、これまで、不動産大手、恒大集団(エバーグランデ)が40兆円の債務不履行で破綻、続いて同じく大手の碧佳園(カントリーガーデン)も破綻したことを思うと、北京の中央政府は、本気で不動産バブルの崩壊を助ける気はないようだ。
これは、不動産バブルを起こした原因が、地方政府による土地転がしであり、それにより巨額の汚職マネーが発生したからだ。習近平は、不動産市場より汚職撲滅のほうが大事なのである。これは極めて重要な点である。
民間が減り国営が増えた「国進民退」経済
そもそも不動産バブルが崩壊したのは、習近平が「家は住むためのもので、投機の対象ではない」と言ったからである。
たしかにそのとおりで、これは誰も否定できない。そのため、それまで不動産市場に流れ込んでいた投機マネーはストップし、地方政府、不動産会社、デベロッパーは莫大な不良債権を抱えることになった。これは、今後も中国経済の足を引っ張るが、それでも習近平は本気で救う気はないようだ。
不動産という付加価値を生み出さないものを、公的資金で助ける意味はないと、習近平は考えている節がある。救うべきは、中国を支える大企業、今後を切り開くベンチャー、そして国民そのものと考え、彼は国家主義に基づく経済政策を行っている。
そのため、習近平がトップに立って以来、国営企業が増えた。これを「国進民退」と言い、現在の中国経済は、民間企業より国営企業が支えている(株式の51%以上を国が持っている企業を国営としている)と言っていい。
中国はまさに、「国家資本主義」を行っていると言えるだろう。(つづく)
この続きは11月15日(金)発行の本紙(メルマガ・アプリ・ウェブサイト)に掲載します。
※本コラムは山田順の同名メールマガジンから本人の了承を得て転載しています。
山田順
ジャーナリスト・作家
1952年、神奈川県横浜市生まれ。
立教大学文学部卒業後、1976年光文社入社。「女性自身」編集部、「カッパブックス」編集部を経て、2002年「光文社ペーパーバックス」を創刊し編集長を務める。2010年からフリーランス。現在、作家、ジャーナリストとして取材・執筆活動をしながら、紙書籍と電子書籍の双方をプロデュース中。主な著書に「TBSザ・検証」(1996)、「出版大崩壊」(2011)、「資産フライト」(2011)、「中国の夢は100年たっても実現しない」(2014)、「円安亡国」(2015)など。近著に「米中冷戦 中国必敗の結末」(2019)。