「この壁は生きている」NYの地下鉄にユニークなセラピー 【仕掛け人にインタビュー】

 

「この壁は生きている」

NYの地下鉄にユニークなセラピー

【仕掛け人にインタビュー】

 

「サブウェイセラピー(Subway Therapy)」の仕掛け人
マシュー・シャベズ(Matthew Chavez)さん

ユニオンスクエア(14th / 6th)地下鉄の壁一面を埋め尽くすように張られたカラフルな「付箋(ポストイット)」。これは「サブウェイセラピー(Subway Therapy)」という、とある男性が手がけるプロジェクトで、口コミや新聞、SNSでの反響でその認知度はアメリカだけにとどまらず、国外にもファンが存在する。


人々はここに来て、それぞれの思いや悩みを付箋に綴り、その数は毎日1000以上にも及ぶ。今回は同プロジェクトを手がけるマシュー・シャベズ(Matthew Chavez)さんを取材した。

◆ 8000を超えるメモ「彼らの生活が書かれている」

11月初旬の大統領選直後に、同ロケーションに出現した「サブウェイセラピー」。恐怖、不安、落胆に陥った人々に寄り添おうと「What’s on your mind」をテーマに、セラピーウォールを設置。「大統領選が終わったばかりだけど、人々は選挙以外のことも書くんだ。彼らの生活や頭にあることを書いてくれて、この数週間で8000を超えるメモが集まって、人々の反応もすごく良い」とマシューさん。

メッセージは十人十色、カラフルな付箋が地下鉄の壁を彩る

前回の大統領選(2016年)の際にも登場し、ローカル紙などで大きく取り上げられ話題となったが、実はこのプロジェクト、8年前にスタートしたもので計100回以上行われている。過去には「自分を表現せよ」「何があなたを幸せにする?」「1番の怖さは何?」など、その時に相応しいテーマをマシューさんが選んで、開催してきた。

2016年の「サブウェイセラピー」
写真は公式インスタグラムからスクリーンショット

実施場所は地下鉄のほか、コーヒーショップや脱毛サロンでも催したことがあるというが、「やっぱり地下鉄はこのプロジェクトをやる上でいちばんお気に入りの場所かな」とマシューさんが話し始めると、たまたま近くを通った女性が「この壁は生きているわ。いつもは違う地下道を通るんだけど、この壁を見たくて今日はこっちを通ることにしたの。もっとやるべき!」と、感動した様子で立ち去っていった。

中央部分に置かれた机

◆ 事故を起こして知った「人と話すこと」の大切さ

壁にはマシューさんが言うように、とにかくいろいろなメモが記されている。「Love Mom」「You will be okay」「Do it scared」「I don’t sweat the small stuff(小さなことではクヨクヨしないよ)」など、十人十色。そして付箋にメモを書き終えた人々の姿は、来たときよりも足取りが軽やかに見えたのも印象的だった。

「BE DIFFERENT BE NICE」

「みんながもっと “Feel Better” になる方法を探したかった」。このプロジェクトの始まりを聞くと、マシューさんはそう言った。「8年前、インドネシアを旅していたときにバイクで事故を起こしたんだ。病院に3週間いて、そのあと2カ月は歩けない状態が続いて、考える時間がたくさんできた。すごく孤独を感じたし、気分は最悪だったけれど、その時に『人と話せること』ができる自分はどれだけ恵まれているかを思い知った」と、自己の経験が人の心に触れる「セラピー」に繋がったと話す。

ひっきりなしに人が訪れ、「このプロジェクト最高ね」と言って通り過ぎてゆく

「それで、そのあとすぐにニューヨークに引っ越して、これを人々と共有したいと思ってサブウェイセラピーをスタートさせたんだ」

セラピーや心理学のバックグラウンドはないものの、昔から人助けやコミュニティ作りが好きだったというマシューさん。この壁は、毎日「貼りっぱなし」ではないので、期間中は毎朝来ては貼って、夜には剥がしてという作業の繰り返しだが、マシューさんは「人々が気に入ってくれているから、幸せ」だという。

やさしいメッセージが貼られた地下鉄の壁

◆「この世界は良い場所だって思えるはず」

ユニオンスクエアでの設置はもう終わってしまったが、今後もニューヨークの地下鉄、そして国外での開催も視野に入れているそうで(最新情報は公式インスタグラムで)、なかでも日本はトップクラスに行きたい国なんだとか。ちなみに最後、マシューさんに「気持ちが落ち込んだとき、迷いそうになったときのアドバイス」をもらったので紹介して終わりたい。

・みんなそれぞれが「素晴らしい」ってことを忘れないで
・スマホでスクロールばかりするのをやめて、外に出て
・人と「会話」しよう、本を読もう


「そうしていると、この世界は良い場所だって思えるはずだから」


取材・文・写真/ナガタミユ

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