不動産バブル崩壊、消費低迷で衰退一途は本当か? けっして侮ってはいけない「中国経済」(完)

この記事の初出は2024年10月22日

歴史的に汚職大国で、賄賂がモノを言う国

 最後に、3期目に入って、いまや完全な皇帝、独裁者となった習近平について述べておきたい。民主国家を自認する日本人にとって、独裁者は許せず、独裁者が統治する時代は「暗黒時代」と思っているが、実際はそうではない。
 まず中国では歴史的に皇帝という独裁者がいるのがフツーであること。次に、習近平が、歴代の中国の独裁者のなかで、誰もできなかったことをほぼ成し遂げたことだ。
 それは、汚職の撲滅である。
 中国は、歴史的に汚職大国で、賄賂がモノを言う国である。共産党支配になってからも、これは変わらず、中国人の暮らしを深く蝕んできた。汚職とともに、幼児誘拐、人身売買、臓器売買、売春、非合法賭博なども横行していた。中国には、オモテの経済とウラの経済が存在のしたのだ。
 ところが、これらを習近平が一掃してきた。
 中国の汚職が進んだのは、改革開放を指導した鄧小平のときとされる。鄧は中国を豊かにするために、共産主義を捨て、現実路線に転換した。すなわち、「白い猫でも黒い猫でも、ネズミを捕まえればいい猫だ」で、カネを稼ぐことを奨励し、そのために汚職には目をつぶった。

なぜ中国人は共産党に入り汚職をするのか?

 改革開放以後、経済成長をするにつれて、中国の汚職による腐敗は想像を絶するものとなった。たとえば、ある共産党幹部は、賄賂としてマンション一棟および計8億人民元(約160億円)もの賄賂を受け取り、愛人5人を囲っていた。いっとき、CCTVの女性アナウンサーのほとんどは、共産党幹部の愛人だった。
 なぜ、中国では汚職が横行するのか?
 それは中国人が競争が大好きで、常に人より上に行こうとするからだ。その意味で、中国人はもっとも共産主義に向いておらず、アメリカ以上の資本主義国である。
 人の上に行くためには、まずは共産党に入党して共産党員にならなければならない。中国では、共産党員以外は出世しない。おカネも稼げない。つまり、誰も共産主義など信じていない。
 ただし、共産党員として最大の条件は、共産党に対する絶対的な服従である。そうしながら、賄賂を上の人間に渡し、出世と欲望の階段を登っていくというのが、中国人の生き方である。じつに人間臭い人々である。

言わば「恐怖政治」で政敵を選んで摘発・追放

 習近平は2012年11月に党総書記に就任して指導部を発足させると、即座に汚職撲滅に乗り出した。2013年1月に党の会議で「虎もハエもたたく」と表明し、反腐敗運動を開始した。
 そうして、最初に槍玉に挙げられたのが、胡錦濤政権で最高指導部メンバーを務めた周永康・政治局常務委員(党内序列9位)だった。周永康は長年にわたって石油利権を握り、汚職で不正蓄財を重ねてきたとされ、2015年に無期懲役刑に処せられた。
 以後、習近平は、次々に汚職を摘発。地方の小役人から中央の幹部役人まで、摘発・追放してきた。
 これは、言わば「恐怖政治」である。しかも、習近平は、すべての腐敗幹部を摘発・追放しているわけではない。自分の政敵や、統治にとって脅威となる人間を摘発・追放しているのである。つまり、「選択的反腐敗」である。
 ただし、これによって、政治はある程度クリーン化され、中抜きがなくなるので経済は活性化する。

「反腐敗運動」が行き着く先にあるもの

 汚職撲滅は、それがたとえ選択的であろうと、これまで誰もできなかったことをやったのだから、中国史に残る出来事である。
 習近平の「反腐敗運動」は、いまも続いている。
 今年1月には、なんと李尚福元国防部長をはじめ、9名の軍幹部が追放されている。人民解放軍の幹部まで汚職で追放できるのだから、いかに中国が腐敗しているかわかると思う。
  6月20日、 習近平は、軍の幹部らを集めた会議で「軍に腐敗分子の隠れる場所があっては絶対にならない」と述べて、汚職摘発を徹底して続ける姿勢を強調した。
「水清ければ魚棲まず」と言うように、正しい行いでも度がすぎると返って害になる。しかし、これは経済には当てはまらない。契約が履行され、カネの流れの透明性が確保されることで、経済は活性化する。水が清いほうがいいのだ。
 習近平の反腐敗が選択的ではなく、公平に行われれば、中国経済は立ち直って成長軌道に乗るだろう。ただ、単なる政敵追放だけなら、皇帝は恨みを買って失脚するだろう。
 いずれにせよ、中国を侮ってはいけない。(了)


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山田順
ジャーナリスト・作家
1952年、神奈川県横浜市生まれ。
立教大学文学部卒業後、1976年光文社入社。「女性自身」編集部、「カッパブックス」編集部を経て、2002年「光文社ペーパーバックス」を創刊し編集長を務める。2010年からフリーランス。現在、作家、ジャーナリストとして取材・執筆活動をしながら、紙書籍と電子書籍の双方をプロデュース中。主な著書に「TBSザ・検証」(1996)、「出版大崩壊」(2011)、「資産フライト」(2011)、「中国の夢は100年たっても実現しない」(2014)、「円安亡国」(2015)など。近著に「米中冷戦 中国必敗の結末」(2019)。

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