NYで次々に催される
「有名人のそっくりさん大会」
人々が夢中になるワケは、顔が似ていなくてもOK?
今、ニューヨークでは有名人の「そっくりさん大会」がトレンドの1つとなっており、勢いに火をつけた俳優ティモシー・シャラメのそっくりさん大会(10月)に続き、先日は世界で最も売れたボーイズバンドグループ「ワン・ダイレクション」のメンバー、ゼイン・マリクの大会があるというので、足を運んでみた。
◆「ニューヨークらしすぎる」トレンド
日本でも年に数回「ものまねグランプリ」がテレビで放送されたり、かつては昼のバラエティー番組「笑っていいとも!」などで、素人の “微妙なそっくり” さんが出てきては茶の間を沸かしていた。そんなひと昔前とも思える「そっくりさんブーム」が今、ニューヨークで再熱しているのだ。
火付け役となったのは、10月に開催されたティモシーのそっくりさん大会。事前告知の時点から、SNSでは「ヤバそうなコンテストがある」と界隈をにぎわせていたが、やはり開催当日には会場に彼の甘いマスク”要素”をもった参加者たち、それを一目見ようと多くの人が訪れ、最後にはまさかの「ご本人登場」という豪華な結末付きで、異常な盛り上がりを見せた。
その様子はすぐにSNSで拡散され、「ニューヨークらしすぎる」「この街のエネルギーはやっぱり半端ない」と、街の特異性までもが注目されていた。
◆ ブッシュウィックに集う「ひげ面」たち
そして、そんな人々の期待に応えるかのように、11月中旬には「ワン・ダイレクション」のメンバー、ゼイン・マリクのそっくりさん大会が開催された。開催時刻の午後3時、会場となったブッシュウィックのマリア・ヘルナンデス・パークには多くの観客が集まり、中央に並んだゼイン風の参加者を見守る。
15分が過ぎたあたりから、徐々に自己紹介が始まり「どこがゼインに似ているか」という主張ではなく、シンプルに「僕はどこの生まれで、どこから来た」みたいなごく普通の自己紹介を繰り広げており、雰囲気はかなり緩め(笑)。そして30分が経ったあたりから、なぜか群衆のなかから次々に「参加者」が登場し、最初は7人だった参加者が、気がついたら13人に増えており、観客も最初の2倍ほどに増えていた。
そっくりさんを競うルールは至ってシンプルで、彼らを2人1組にし、観客は似ていると思う方に拍手や声援を送る。そしてトーナメントで競い合っていくというものだ。日曜の昼下がり、せわしないニューヨーク、しかもヒップな若者が集うブッシュウィックで「これだけの人がそっくりさんを見守っている」という事実にクスッと笑いながらも、無事に優勝者と入賞者も選ばれ、幕を閉じた。ちなみに優勝者に与えられたのは「タトゥーの無料券」だった。
◆ 顔のクオリティは「自称」に過ぎないが…
まず一連のそっくりさん大会で、感じたこととしては「顔が似ているか」は重要ポイントではないということ。その1つの出来事に向かって、みず知らずの観客が公園に集まり、一丸となって思い切り声援や拍手を送り、SNSにそのシーンを共有する。おそらくニューヨーカーがこの大会に求めているのは「そっくり」ではなく「街中で起きている面白そうなこと」に対する ”共感”なのだと。
とはいえ、そっくりさん大会なのに今回のゼインに関しては「全然似ていない」ので、ネットでは「本人に申し訳ない」と一部バッシングもされていたが、開催当日はいたってピースフルで、みんな楽し気に「え〜どっちかな〜!」と言いながら、勇気ある参加者にエールを送っていた。
SNSが主流となり、人とのつながり、出会いもそこを通じてできる時代。だが、最近のニューヨークでは若者がよりリアルな体験を求めるアクティビティが増えているように感じる。Z世代が企画する「出会いの掲示板」に、地下鉄の壁で行う「付箋のセラピー」、シングル男女の出会いのマラソン・・・ほかにもたくさんある。混沌とした世の中だが、こうして再び「リアル」に価値を見出し、瞬間を分かち合おうとするのは素敵なムーブメントだ。
取材・文・写真/ナガタミユ