この記事の初出は2024年11月5日
「MMT理論」と「ザイム真理教」というフェイク
この国には、金融経済(とくに国債)に関して、とんでもない意見が横行している。
いわく「国債は国の借金だが国民の資産」「国債は国内消化がほとんどだから財政破綻しない」「自国の通貨建てで国債を発行できるならいくら発行してもいい」「財務省が国を支配している」「財政均衡などする必要はない」「財務省の緊縮財政、増税により日本は成長できない国になった」
これらをまとめると、「MMT理論」と「ザイム真理教」に行き着くが、この2つはあまりにもフェイクすぎて、反論する気すら起こらない。ただ、これらを本当に信じて、言論を展開している似非専門家がいる。
また、保守の一部は本気で信じて、「日本が失われた30年を続けたのは、財務省による緊縮財政と増税政策のせいである」などと、言ってのける。国債を天文学的な額まで積み上げたのを、なぜ緊縮財政などと言えるのか。放漫財政そのものである。
また、「新自由主義のおかげで格差が広がり、賃金も上がらず、経済も低迷した」などという“お花畑”論者もいる。もし日本が本当に新自由主義をやっていたら、賃金も上がり経済も成長していただろう。
これまでの日本、すなわち自民党政治がやってきたのは、社会主義であり、弱者救済、弱者企業救済のバラマキ政治である。これにより、個人も企業も競争力を失い、先進国転落を招いたのである。
減税財源を国債に頼った英国トラス政権の二の舞
前のメルマガ(No.745 2024/10/15各党すべて「バラマキ・ポピュリズム」衆議院選挙に絶望するしかないこれだけの理由)でも述べたが、財源なきバラマキをすれば、2年前の英国リズ・トラス政権の二の舞になるのは確実だ。
トラス首相は、政権発足直後に、所得税減税、法人税増税計画の凍結、エネルギー料金の負担軽減策などを実施すると表明した。しかし、財源がないため、すべて国債でまかなおうとした。
当然だが、これに市場は動揺した。財政悪化を懸念して、長期金利が5%に跳ね上がり、株価は下落、ポンド/ドルは最安値を更新するという「トリプル安」に陥った。市場からの強烈な「NO」である。
こうして、トラス政権は、英国史上最短の在任49日で退陣に追い込まれたのだった。
公務員、政治家ともに数と給料を減らす
減税するのはいい。不景気だけに、なおさらやらねばならない。しかし、その方法が国債という借金では、そのツケを国民が払うことになる。
トラス政権の減税規模は、当時の為替レートで約7兆円だった。英国と日本は人口も経済規模も違うが、国民民主の公約を見ると、その減税規模は異常に大きい。それを、もし国債発行でまかなおうとしたら、英国以上に悲惨なことになりかねない。円は投げ売られ、その結果円安は進み、物価高は止まらなくなるだろう。
日本にはまだ減税できる財源がある。裏会計である「特別会計」を組み直す、省庁を改変して規模を小さくする、徹底したデジタル化を進めてコストがかからないデジタルガバメントにする、官僚の天下り先となっている独立行政法人を解体・整理する、公務員の数と給料を削減する、同じく国会議員の数と給料を削減するなど。これらをやれば、経済は劇的に回復するだろう。
日銀の政策いかんで日本人も円を投げ売り
本来なら、放漫財政を続けている日本は、もう英国のようになっていないとおかしい。しかし、日銀がいまだに量的緩和を続けて金利を無理やり抑え込んでいるため、まだ市場の反乱が起きていない。
最近の市場を見ていると、日銀が金融の引き締め(金利引き上げ)を示唆すると、株価は大幅に下落する。逆に、緩和続行となると値上がりする。
10月31日の金融政策決定会合では、現在の金融政策を維持し、政策金利を据え置くことを決めたので、石破政権の支持率が下降を続けているのに、株価は維持されている。
ドル円のほうは、一時、金利引き上げがあるとして円高に振れたが、いまは150円を超えた円安が続いている。しかし、いずれ、さらに円安は進むだろう。国債増発が決まれば、それは加速する。そうなれば、海外筋ばかりか日本人も円から逃げ出すだろう。
アメリカのバブル崩壊を待たずに売りか?
現在、世界中が景気はよくない。アメリカがいいと言ってもGDP成長率は2.8%と低い。EU諸国もどこも低成長である。それなのに、NYダウをはじめとする株価、債権、不動産、貴金属、穀物、原油など、金融資産は軒並み上がってバブルとなっている。
これは、コロナ禍で世界中が、金融緩和を行い、国民にバラマキをした影響だ。
アメリカにいたっては、FRBが大幅な金融緩和を行い、マネーサプライは従来の5倍以上に膨らんだ。このマネーが株式などの金融市場に流れ込み、いまだに回収されていない。
となると、バブルはいずれ崩壊し、たとえば現在4万2000ドル台のNYダウはコロナショックが起こる前の最高値2万9500ドルぐらいまで戻るのではないだろう。ほかの金融資産も同じだろう。
そうなれば、日本の市場でもバブル崩壊が起こる。
自公が国民民主を政策提携する動きを、市場は静かに見守っている。そうして、バラマキ確定となれば、アメリカのバブル崩壊を待たず、一気の売りが始まるだろう。(了)
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山田順
ジャーナリスト・作家
1952年、神奈川県横浜市生まれ。
立教大学文学部卒業後、1976年光文社入社。「女性自身」編集部、「カッパブックス」編集部を経て、2002年「光文社ペーパーバックス」を創刊し編集長を務める。2010年からフリーランス。現在、作家、ジャーナリストとして取材・執筆活動をしながら、紙書籍と電子書籍の双方をプロデュース中。主な著書に「TBSザ・検証」(1996)、「出版大崩壊」(2011)、「資産フライト」(2011)、「中国の夢は100年たっても実現しない」(2014)、「円安亡国」(2015)など。近著に「米中冷戦 中国必敗の結末」(2019)。