この記事の初出は2024年11月12日
聴衆に向かって具体的かつ細かく投票を懇願
イーロン・マスクは、さすがに企業経営者、リアリストである。歯が浮くようなことはけっして言わない。言うのは、いまなにをすべきかだけだ。
つまり、会場に来ている聴衆に1人残らず投票させ、さらにその周囲の人間にも投票させる。そのことに絞って語っている。
「あなたの1票の価値は大きい」
「もっとも重要なのは、有権者登録(register to vote)です」
「あなたが登録してあるか確認してほしい」
「あなたの周りの人、家族、友人など、全員に確認してほしい」
「あなたの知り合いにも声かけて、電話して、ソーシャルメディアでも連絡して、投票させてほしい」
「道行く人にも、街ですれ違った人にも投票を促してほしい」
「これから最後までできる限りあらゆる手段で(トランプに)投票してほしい」
「ともかく、Vote(投票)、Vote(投票)、Vote(投票)です!」
この応援演説の結果が、以下になったと言えるだろう。
カマラ・ハリス 48.5% 336万6829票
ドナルド・トランプ 50.6% 351万1865票
イーロン・マスクがほかの有名人サポーターたちと違ったのは、支援を表明する、単にカネを出すだけではなく、このように具体的な応援演説を行い、カネを有効に使い、勝つために積極的に行動したことだ。
なにかにベットした以上、あらゆる手段を使って勝つ。プライドもなにもかも捨てて、ただひたすら有権者に懇願し、日本の「ドブ板選挙」のようなことを全力で行ったことだ。
この点で、民主党カマラ・ハリスの有名人サポーターとは違っていた。
民主党陣営は有名人サポーターを総動員
大接戦という世論調査を受けて、民主党ハリス陣営は、有名人サポーターを積極的に登場させた。10月25日には、ビヨンセがテキサス州で、31日にはジェニファー・ロペスがネバダ州で、ハリスの応援演説に登場した。そうして、11月3日には、レディー・ガガが、インスタでハリス支持を表明した。
それ以前に、テイラー・スウィフトやケイティ・ペリーなども支持を表明しているから、ハリス支持の有名人サポーターのラインナップは、これまでの大統領選で類を見ないものだった。しかし、その効果はなかったと言えるだろう。
ビヨンセがハリスのキャンペーンに登場したのは、10月25日、彼女の故郷ヒューストンの会場だった。すでに、『フリーダム』がハリスのキャンペーンソングになっていたから、その曲が流れるなかで観衆は、ビヨンセの登場を待ちわびていた。
母親として登場して歌わなかったビヨンセ
ビヨンセは、元デスティニーズ・チャイルドのメンバー、ケリー・ローランドと手を繋いで登場した。会場に集まった約3万人の観衆は、フリーダムと書かれたプラカードを掲げて歓声を送った。その歓声に応えて、ビヨンセはこう言った。
「私はセレブや政治家としてここにいるのではありません。(女性が)自分の体のことを自分で決められる自由な世界であるか、気にかけている母親としてここにいます」
これは、民主党が人工妊娠中絶を争点として掲げていたので、それに沿ったスピーチだった。そして、ビヨンセは「新しい歌を歌うときが来ました。あなた方を必要としています」と続けたのだが、誰もが期待した『フリーダム』は歌わなかった。
代わりにパフォーマンスを披露したのは、古老のカントリー歌手ウィリー・ネルソンだった。これには、多くの観衆が失望し、その後、「X」には恨みの投稿が溢れた。
「カマラ・ハリスは無料のビヨンセ・コンサートを餌にして、ウィリー・ネルソンに演奏させた」
「ビヨンセが歌わなかったのは信じられない」
この続きは12月6日(金)発行の本紙(メルマガ・アプリ・ウェブサイト)に掲載します。
※本コラムは山田順の同名メールマガジンから本人の了承を得て転載しています。
山田順
ジャーナリスト・作家
1952年、神奈川県横浜市生まれ。
立教大学文学部卒業後、1976年光文社入社。「女性自身」編集部、「カッパブックス」編集部を経て、2002年「光文社ペーパーバックス」を創刊し編集長を務める。2010年からフリーランス。現在、作家、ジャーナリストとして取材・執筆活動をしながら、紙書籍と電子書籍の双方をプロデュース中。主な著書に「TBSザ・検証」(1996)、「出版大崩壊」(2011)、「資産フライト」(2011)、「中国の夢は100年たっても実現しない」(2014)、「円安亡国」(2015)など。近著に「米中冷戦 中国必敗の結末」(2019)。