共同通信
インド南部チェンナイに、工芸品のような手製の本を作ることで世界的に知られる出版社がある。先住民画家らの絵を手すきの紙に版画技法で印刷し、職人が糸で製本する。工房を訪ねると、効率第一の昨今の時流とは一線を画して職人たちが黙々と作業し、本に命を吹き込んでいた。(共同通信ニューデリー支局 岩橋拓郎)
出版社の名は1994年創業の「タラブックス」。職人も合わせ約40人の小さな出版社だが、インドの先住民ゴンド族の作家らが描いたハンドメード絵本の代表作「夜の木」が2008年にイタリアのボローニャ国際児童図書展で受賞し、その名が世に広まった。
タラブックスから車で30分ほど離れた住宅街の一角に本を作る工房がある。2階建ての建物に入ると、石の床の上に直接座った職人の男性4人が黙々とのりで裏表紙と中身を貼り合わせる作業をしていた。糸を使って製本する作業もある。
「1階で製本、2階で印刷をするんだ」。責任者のマニカンダンさん(48)が説明した。工房で働き始めて27年。転職が珍しくないインドで、他の職人たちも15~20年ほど勤めているという。
2階では、男性が塗料を板に流し込み、1枚ずつシルクスクリーンで手刷りしていた。色ごとにこの作業を繰り返し、約2時間かけて乾燥させる。大量生産とは正反対の地道な仕事だ。
「2千部を作るとなると準備に10~15日、印刷に30~40日はかかる」とマニカンダンさん。本を手に取りページをめくると、少し厚手の紙にざらっとした質感がある。
タラブックスで作られた本や出版活動を紹介する展覧会は、日本でも時折開かれている。2017年に東京で開催された展覧会は上皇后(当時皇后)さまが鑑賞され、手作りの絵本に感心した様子だったという。
同社の女性スタッフは「多様なインド文化を子どもたちに伝える本を作りたいと思い、創業した。これまでになかった本の形を作り、本の未来を広げたい」と語った。