村本大輔、NYで果敢に挑戦するワケ
「1ドル払ってネタを試してます」
「成功がどうかっていうよりも、自分がどう変わっていくのかが楽しみなんですよね」日本のテレビ業界を抜け、43歳で単身ニューヨークに渡ったウーマンラッシュアワー・村本大輔。かつては日本のお笑い界でテッペンも見た彼はなぜ、ニューヨークのコメディクラブでマイクを握るのか。
アメリカ生活半年目。「ホームレスにネタを試している」「たまたま話しかけたのが憧れの芸人のブッキングマネージャーだった」、村本が感じる “ニューヨークの街” とこれから目指すところについて、話を聞いたらさまざまなエピソードが飛び出してきた。
ニューヨーク生活は
「ネタを試したい気持ちでいっぱい」
──ニューヨークでの日々、だいぶ慣れてきたのでは?
めっちゃ楽しいっすね。夜中にコメディクラブの出演が終わるじゃないですか、そして帰ってる途中に「あの部分の言い方、悪かったかな?」「もうちょっと違う言い方したらウケたかな?」とか思うときは、その辺で歩いてる人に聞いてもらうんです。
──真夜中のニューヨーカーに?
はい。この間は、犬を散歩させてる20代くらいの女の子がいたので「聞いてもらおう!」って思って、「ネタ聞いて?」って呼び止めたら、ノーモーションで「OK」って。普通「え?」とかなるじゃないですか。でも普通に聞いてくれたりして。そういうのが自分の中ですごい楽しいんですよね。
あ、服の店員にも聞いてもらうんですよ。試着室で服を試着して、店員に「どうだった?」って言われると同時に「このネタどう思う?」って聞く(笑)。もう頭はネタを試したい気持ちでいっぱいいっぱい。服のこと忘れて聞いてもらったり・・・常にそうなんです。
──今はどんな生活をしてるんですか?
まず朝起きて、日本語でネタを作る。午前中のうちにチャットGPTに英語にしてもらって、いつも行っているカフェで店員さんに聞いてもらう。
──まずは他人の反応を見るという。
そう、でもやっぱりチャットGPTだけだと不十分なところもあって。前にビートたけしさんがチャットGPTに映画を作ってもらった感想を「わさびのない、すしみたいだった」と言っていたんです。普通にうまいけど、何か足りないみたいなことを言ってて。確かにチャットGPTはきちんとした文章や論文とかを書くものなので、形容詞が丁寧すぎたりする。なので、いったん作ったものを壊す作業をするんです。人に試して余分なものを抜く作業をしてから、夜コメディクラブに行きます。
他人から言われた
「すごいですね、その飛び込む勇気」
──コメディクラブの「オープンマイク」(プロアマ問わず誰でも参加できる)でもいろいろな種類があるみたいですね。
ゲストとして呼ばれるものから、自分でお金を払って出るものまである。僕がこの間優勝したのは、「コメディロッタリー」ていう、ウィリアムズバーグのコメディクラブで毎週月曜に開かれているオープンマイクなのですが、貧乏芸人から金持ち芸人までが集まって、1ドル払って紙に名前を書くんですよ。1ドルで1枚、2ドル払ったら2枚・・・て、バケツに入れていくんですよね。
で、そこにいる50人くらいの中から15人だけ引かれるんです。審査員にはニューヨークでちょっと有名なコメディアン3人がいて、名前が引かれたら、彼らの前で3分ネタができる。そこから選ばれた芸人には最後決勝があって、最後はお客さんの拍手が1番大きかった人が、バケツの中の金を全て持って帰れるというものです。
──じゃあ、運が悪ければ呼ばれないこともあるんですか?
あるある(笑)前に日本から来た芸人が、「俺もやりたいっす」って言って、なけなしの10ドルを使ったのに名前呼ばれずに終わって、すげえ落ち込むっていう。そういうこともある。僕も20ドル払っても呼ばれなかったこともありますから。
──みんながその瞬間に賭けに来ている感じが、なんとも良いですね。
黒人の男の子がダウンジャケットに穴が開いているのに着てるのとかを見ていると、「いいな」となりますよね。
──街ゆく人にネタを試し歩いたり、ローカルなコメディクラブに次々に飛び込んで行ったり、村本さんは挑戦することへの怖さみたいなものは感じないんですか?
それ、たまにびっくりされるんです。この間も「コメディセラー」っていう僕の憧れのコメディアン、クリス・ロックが教えてくれたコメディクラブがあって観に行ってたのですが、終わった後にそこにいた芸人たちに片っ端からネタを試しまくったんですよ。そしたら一緒にいた日本人の友人たちがそれを見て、びっくりしてて「すごいですね、その飛び込む勇気」って。でもやっぱりウケたらうれしいし、スベったら「このレベルか」って、人がいれば確認できるじゃないですか。
で、そのなかでたまたま話しかけた1人の女性が、これまた僕が憧れるコメディアン、ロニー・チェンのブッキングマネージャーだったという(笑)「俺のYoutubeのネタあるから、送っていい?」とインスタグラムを交換しましたよ。
──なんだか村本さんの話を訊いていると、逆に挑戦しない方がもったいないというのが伝わってきます。
「謙虚損」ですね。謙虚になってしまうと損する、みたいな。
ある人に勇気をもらった
「アメリカでお笑いやることに、なにビビってるんだ」
──英語の方は順調ですか? 村本さんのニューヨークでのライブを拝見しましたが、村本さん特有の早口技は英語でも変わらず、観客がグッと前のめりになって聴き込んでいる姿が印象的でした。
英語のことを考えると、「こいつらと勝負すんのか〜」となる時はあります。コメディクラブに行くと、みんな母国語で自由に言葉を操って笑いを取るから、自分の完全暗記した英語のネタのテンポとは違う。これまでのお笑いは自分の母国語で極めてきてたし、なにせ俺はもみあげに白髪が生えてきた頃に英語勉強し始めたので。でも僕は(言葉のイントネーションで笑いを取る)ボビー・オロゴン的な笑われ方はしたくないから。
──言葉で負けそうになったときは、どうしているんですか?
言葉で挑戦しようと思って勇気もらったのが、札幌にいるフウカちゃんっていう重度の脳性麻痺の子で。普通に喋ることすらできないくらいなんです。そんな彼女が一度「ライブで前説をやりたい」とメールをくれて、お願いした結果、爆笑取って帰ったんですよね。人ってやっぱり真剣に喋っていたら聞くし、そこにいた100人全員がフォーカスしていました。
ネタもちゃんと面白くて、内容は自分を介護してくれてる人の高齢化で、おばあちゃんの介護士が来たけれど、耳が悪いからどっちが介護しているか分からないっていうものだったんですけど、最後バーンと大きな笑いを取って、電動車椅子でブーンて帰って行ったんですよ。それ見た時に、僕の言語はアプリでどうにかできるのに、アメリカでお笑いやることに、なにビビってるんだろ?って。
──そんなエピソードがあったんですね。そう思うと舞台は人種のるつぼニューヨーク、日本より「人と違う」部分に対しては寛容な街ですよね。
この間モデルをやってる人と知り合って、その人が言うには、よく街なかで「かわいいね」とか声かけられるらしいんです。でもそのことについて「服というよりも『私はこういう人間なんだ』ということを主張している人に、ニューヨークの人は敏感に反応する」と言ってて。
そう考えたときに、この街に住んでいる人は育ってきた背景や宗教がバラバラだからこそ個人に強く惹かれるところがある。だからコメディをやる上でも「自分がこういうことを言いたいんだ」「自分はこういうのを面白いと思うんだ」というのを強く表現するようには心がけています。
──「かわいい服だね」「そのジャケットいいね」特にニューヨーカーは良いと思うことに対しては、ある種、全力で褒めますよね。
だから気持ち良さも半端なくて。気持ちが上がる日はエンパイアステートビルを越えるくらいバーンと上がるけど、また別の日には地下鉄くらいまで気持ちが落ちる(笑)ジェットコースター感もこの街にはありますね。
──今後の目標は、やはりまずこの街を笑わせたい?
うーん、「笑いを取る」とか「成功がどう」かっていうよりも、福井を出て、大阪に行って、東京に行って。いろいろな人と知り合って、自分のネタや考え方が確実に変わってきているので、ニューヨークに来て自分が、自分のネタがどう変わるのか。「60歳くらいでどういうネタやるのかな?」って自分がすごく楽しみなんですよね。
──常に自分にワクワクしていたい。
スーパー金持ち芸人もいっぱいるじゃないですか、でも金のこと考えたらキリがなくって「あいつこんなことやってるんや、しんどそうやな」とか思ってしまうから。今は「自分のコメディの中のちょうど良い幸福ってなんだろう?」というラインを探している感じですね。もちろんこれからもアメリカで活躍した思いはありますが、本当に何も決めてないんですよね。その時決める(笑)。
──これからが楽しみで仕方がありませんね。
こんなこと言ってますけど、現実はホームレスにネタを試しながら生きてますから。夢だけは大きく語りますけどね。ホームレスに1ドル払ってネタ試しているときとか、「これオープンマイクと一緒やん!」って思いますもん。しかも5ドルあげたのに、全然笑ってくれなかったら、4ドル返せとか思いますよ。
──苦笑
でも試す相手もきちんと選ばないと、本格的にやばいやつがいるから。しゃんとしてるやつとか、一応ポライトなホームレス探してます。カッツ・デリカテッセン(ニューヨークの老舗デリ)とか、高級なレストランの前で突っ立てるやつ、「こいつ分かってんな」みたいな人を探してます。
取材・文/ナガタミユ
写真/Yuki Kunishima
【連載】村本大輔のニューヨーク劇場
村本大輔がニューヨークという劇場を舞台に繰り広げる
一筋縄ではいかずともどこか愛おしいニューライフ
第1話 「パクチーが、言えない」
第2話 「This is America!」
第3話 「あの日々は夢だった? 竜宮城(日本)より」
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