共同通信
「タンチョウがここを選んでくれたという幸せを、子どもたちにも感じてほしい」。北海道むかわ町は、明治時代ごろから道央圏ではほとんど見られなくなっていたタンチョウが、繁殖を再開した場所の一つ。自然愛好家のグループ「ネイチャー研究会inむかわ」は、その生態やタンチョウを取り巻く自然環境の豊かさを子どもたちに伝え続けている。(共同通信=松本はな)
町はラムサール条約に登録された湿地のウトナイ湖に近く、空にはチュウヒやオジロワシ、干潟にはシギ、チドリなど多くの希少鳥類が生息。開発の進む道央圏の中で豊かな生態系を残す。
ネイチャー研究会は1996年に地元の人たちが立ち上げ、現在のメンバーは36人。キノコ狩りや干潟でのピクニックなど、子どもが自然に触れる機会をつくってきた。
2011年、町にタンチョウが飛来し、翌年から付近の湿地で繁殖を始めた。子どもたちも観察できるようになり「本物を見て、みんな表情をきらきらさせる」と小山内恵子(おさない・けいこ)会長(71)は話す。2015年にカメラマンに追い回されたヒナが死んでしまってからは、連日交代で親子の様子を観察し、人や車が近づかないよう見守ってきた。これまでに育ったヒナは10羽。一部は近隣の市や町でも確認され、道央で個体群が再生する足掛かりとなっている。
最近では営巣地の近くで風力発電の計画が進む。工事で自然環境が変わり、営巣をやめてしまう恐れがある。「再生可能エネルギーは重要だけど、環境を無視して普及させるのは本末転倒ではないか」。会は今年8月、計画の中止を求める約9500人分の署名を北海道や事業者に提出した。
3年前に札幌からむかわ町に戻った会員の奥野泰崇(おくの・やすたか)さん(51)は言う。「子どもの頃遊んだ土のにおいやカエルの鳴き声っていいものだと、戻って初めて気づいた。これから故郷に帰る若い人に残していきたい」
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