共同通信
カタクチイワシの巻き網漁などを手がける長崎県雲仙市の水産会社「天洋丸」社長の竹下千代太さん(60)は数年前、期間限定採用の「一年漁師」を企画した。「ずっと働き続けるのではなく、人生の寄り道に」と交流サイト(SNS)で発信、漁業に興味のある若者を呼び込んできた。
祖父も父も漁師で、東京都内の大学を卒業した後は、大手水産会社に就職。23年前、地元に戻って家業を継いだが、「漁業は斜陽産業と言われていて、やめる人が多い」。人口減少に伴う漁業の衰退に強い危機感を抱くようになった。
巻き網漁は漁師が多く必要で、人集めには苦労していた。数年前に事業拡大でカキやイカ、タコの養殖を始めたこともあり、人手不足に陥ったが、勤務時間の長さや労働環境の過酷さといったイメージから、求人に応じる若者は少なかった。
気軽に働いてもらえたらと2021年2月に考えついたのが1年間限定で正社員同等の待遇で働いてもらう仕組みだった。体験者がSNSで活動の様子を投稿、それを見た若者が応募するケースにもつながった。
これまでに3人が一年漁師に。竹下さんは「期間は限定でも経験は一生もの。ここでの経験を漁師でない別の道でも生かしてほしい」と話した。3人のうち1人は期間後も天洋丸で働き、漁師を続けているという。
取り組みが評価され、2024年3月に行われた全国青年・女性漁業者交流大会では、2023年度の一年漁師で佐賀市出身の檜森友香子さん(25)とともに、地域活性化部門で農林水産大臣賞に輝いた。
漁業の衰退克服には、地元を活気づけることも大切と考え、煮干しの魅力などについて関係者が語り合う「全国煮干しサミット」を発案。実行委員長として開催に関わった。2024年4月に実現させ、各地から大学教授や料理研究家らが集まり、市内がにぎわった。
竹下さんは「漁師として一生働き続ける必要はない。ここでの経験を積みながら、それぞれの生き方を見つけてほしい」と話した。
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