2025.01.28 REPORTS インタビュー

企業探訪 エグゼクティブインタビュー りそなアセットマネジメント 黒瀬浩一(くろせ こういち)

りそなアセットマネジメント株式会社運用戦略部、チーフストラテジスト兼チーフエコノミスト。同社において30年以上、運用業務に携わる。2022年には日本コーポレート・ガバナンス・ネットワークが主催した懸賞論文「失われた30年どうする日本」で優秀賞を受賞。著書に『時代の「見えない危機」をよむ』(2020年)などがある。慶応義塾大学商学部卒業。大阪府出身。

トランプ新政権を前に、
ニューヨークで“新世界秩序”を感じる。

ニューヨーク訪問は久しぶりだそうですね。以前と比べてニューヨークは変わったと思いますか?
 ニューヨークに来るのは2019年以来、5年ぶりです。万引きなどの影響でチェーンの薬局が激減していたこと、渋滞税やテレワークの影響から地下鉄が空いていること、金融市場関係者との面談でも党派色が強く出ていたことなどでしょうか。例えば、トランプ支持者は成長が加速してインフレはほぼゼロにまで収束すると見ている一方、民主党支持者は低成長でインフレが4%まで上がると予想しているなどの違いは非常に興味深かったです。

黒瀬さんにとってのニューヨークとは?
 日本のドメスティック市場は別として、国際的な金融市場で生きていくには、思考もアメリカ人になりきる必要があると感じています。私にとってニューヨークはそのための入り口です。コロナ禍前は年に1度は出張していましたが、再開できてうれしく思います。

アメリカ経済は昨年、FRB(連邦準備制度理事会)の利上げにもかかわらず、リセッションにも陥らず堅調な成長を果たしました。新大統領の就任で、アメリカと世界の経済はどのような影響を受けると思いますか?
 堅調を維持すると見込んでいます。トランプ大統領の政策は、行き過ぎたグローバル化を修正するという意味で正しいと思います。私は大げさに“新世界秩序”と呼んでいるのですが。トランプ政権と協力して、“新世界秩序”の構築に貢献する国家はアメリカと共に発展すると思います。従前の自由貿易やグローバル化に固執してアメリカと敵対する国家は暗い運命をたどるのではないでしょうか。ドイツやフランスなどヨーロッパ経済にはこの傾向が強く出始めています。
 トランプ政権の政策は①関税 ②移民送還 ③東欧と中東の戦争 ④規制緩和や減税など財政政策による景気対策と株価、この4本が柱です。4つが全て実現できれば問題はありません。しかし相矛盾するので優先順位の問題になります。実際の政権運営では、④を最優先させることになると思います。逆に言うと、①関税 ②移民送還は景気の腰を折らない範囲での政策発動になると想定します。
 また、アメリカ国内経済全体にも二極化が進んでおり、大企業と中小企業、製造業と非製造業、債務の多い企業と少ない企業、含み益の増加した企業と含み損の増加した企業、格付けの高い企業と低い企業などで、景況感は相当に違うことには注意が必要です。

日本経済への影響という点から、トランプ新政権のどのような政策に注目していますか?
 昨年の景気はパッとしないものでした。原因は、2023年の自動車会社の不正による生産調整と能登半島地震です。24年も自動車会社の不正による生産調整がありました。米価の高騰による消費者マインドの悪化も挙げられます。日本は消費税率を上げた効果は大きく、GDP比の税収は過去最高です。逆に税の取り過ぎで景気が腰折れしそうになっており、昨年初夏には定額減税で約5兆円、12月には補正予算でまた4兆円ほど減税を実施しています。この効果に支えられて景気は回復基調になると見込んでいます。
 株価の観点では3月決算でガバナンス改革がもう一段進展すると期待しています。東証は昨年11月に「投資家の目線とギャップのある事例」を公表しました。これは通称「ダメガバナンス」で、どこの会社がダメかをAIを使って検索すれば分かります。企業は株主総会に向け相応の対策を迫られる、すなわちガバナンス改革の進展になると思います。

「日本でも、デイリーサンNYの情報は役に立つよ」と黒瀬さん

他に今年注目している世界動向、日本国内の動向は?
 米中競合が、どこまでエスカレートするかが最大の注目点です。東欧と中東の戦争終結で原油価格が大きく下がり、復興需要で経済が盛り上がる可能性はあります。1990年代のアジアの通貨危機のような危機がイギリスで先進国初に起こるリスクがあります。アルゼンチンのミレイ政権の改革が実を結び始めており、一段と進展する可能性があります。

最後に、ニューヨークで活躍している日本人へメッセージをお願いします
 昨今の日本ではメディア離れが著しく進んでいます。日本人の海外ニュースに関する感度は相当に落ちていると思います。しかし、福沢諭吉は近代国家では教育とメディアが重要だと喝破しました。日本人ニューヨーカーの皆様には、日本人の思考が“縮み志”にならないよう橋渡しをお願いしたいと思います。特にトランプ政権の政策は、最高裁判決に基づく行政法解釈の大転換、グローバル化の弊害の修正の2つの面で、1990年ごろに東西冷戦が終結して以来のグローバル化の大幅な修正です。この流れに日本が乗り遅れたら、また失われた10~30年になるリスクがあることには注意しなければならないと思います。長くなってしまいましたので、さらに興味をもっていただけるようでしたら、以下のレポートをぜひご一読ください。

■https://www.resona-am.co.jp/oshirase/2025/pdf/250110_m2.pdf

■https://www.resona-am.co.jp/oshirase/2025/pdf/250110_m1.pdf

■https://www.resona-am.co.jp/oshirase/2024/pdf/241211_m.pdf

■ https://media.finasee.jp/articles/-/14922

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