2025.02.14 COLUMN 山田順の「週刊 未来地図」

山田順の「週刊 未来地図」トランプ獲得発言で注目のグリーンランド。しかし、氷が溶けたら危ないのはアメリカだ!(完)

マンハッタンでは防水壁の建設が始まっている

 トランプは、ICPPの報告書など知りたくもないだろうが、じつはアメリカの多くの都市が水没する可能性が高い。その筆頭は、やはりニューヨークである。最近では、たびたび大型ハリケーンに襲われ、高潮の被害にあっている。また、すでに海面上昇も観測されていて、リスクは日々高まっている。
 2022年3月に英科学誌『ネイチャー・ジオサイエンス』(Nature Geoscience)(電子版)に発表された論文によると、ウォール街は今世紀中に、頻繁に水没するようになるという。なにしろ、マンハッタンのダウンタウンは 海抜1メートルに届かないところが何カ所もある。ニューヨークの象徴「自由の女神」は台座があるので水没しないが、リバティアイランド自体は確実に水没すると見られている。
 専門家のなかには、IPCCの予測より海面上昇が早くなるとする人間もいて、2050年までに最大75センチ上昇するという報告もある。そのため、マンハッタンでは、すでに、防水壁の建設や河川の盛り土などの工事が始まっている。大規模なものが、「East Side Coastal Resiliency Project」である。これは、マンハッタン南東部に、4キロにわたって公園、防水堤(シーウォール)、可動式水門を整備するというものだ。
 これは、2012年に44人の死者を出した大型ハリケーン「サンディ」による大水害の教訓によるところが大きい。ただし、海面上昇に対して護岸をつくるなどの対策は、次善の対策であって、本来の対策はCO2の削減である。

2100年までに水没するアメリカの都市

 ニューヨークばかりではない。アメリカでは、多くの都市が、水没リスクにさらされている。気候研究機関の「クライメート・セントラル」(Climate Central)が開発した「グーグルアース・プラグイン」を使うと、海面上昇にともなって、アメリカの都市がどうなるかを見ることができる。
 たとえば、サンフランシスコは、2100年までに、代表的な観光地のフィッシャーマンズ・ワーフが水没すると予測されている。
 同じく、首都ワシントンDCは、歴史的なモニュメントのいくつかが水没する。ただし、リンカーン記念堂のリフレクティングプールは水没するが、記念堂自体は水没しない。ポトマック川に隣接する入り江のタイダルベイスン沿いのトーマス・ジェファーソン記念堂は水没する。
 全米でもっとも水没リスクが高いとされるのが、南部のチャールストンだ。市のほぼ全域が2100年までに水没するとされている。南北戦争の端緒となった有名なサムター要塞は海の下になってしまう。
 ニューオーリンズも水没リスクがもっとも高い都市の代表だ。2005年のハリケーン「カトリーナ」では、市の約80%が水没した。海面上昇は、これと同じ状況をもたらすという。

植民地獲得競争時代の帝国主義“化石アタマ”

 トランプは、グリーンランドばかりか、カナダもパナマ運河も欲しがっている。獲得するために軍事力や経済力を行使する可能性を否定するかと問われ、「いや、その2つについてはどちらも断言できない」と答えた。
 とんでもない“化石アタマ”だ。植民地獲得競争に明け暮れた帝国主義時代の発想だ。
 地球温暖化が進むなかで、地政学にこだわってどうしようというのか。安全保障といっても、敵は他国ではなく、温暖化という気象現象であり、これは人類の生存を脅かす世界共通の敵である。
 万が一、トランプがグリーンランドを得たとしても、安全保障など得られない。アメリカの多くの都市が水没し、気候変動によるカリフォルニアの大規模火災、プレリーの干ばつ、メキシコ湾での大型ハリケーンの発生のようなことが頻発するからだ。

やるべきことの第一は温暖化対策ではないか

 水没リスクで言えば、沿岸部が平坦なフロリダは、海面上昇の影響をもっとも受けやすい。グリーンランドの氷がすべて溶ければ、当然だが、トランプの邸宅「マー・ア・ラゴ」は水没する。
 この時局、世界のリーダーアメリカ大統領がやるべきことの第一は、温暖化対策ではないのか。
 メキシコ湾を「アメリカ湾」に名称変更すると言い放ち、風力タービンが「クジラを狂わせている」と述べて、風力発電に反対するなど、もうこの78歳の老人の“化石アタマ”は救い難い。
 関税ふっかけ外交により世界経済がどうなるか、トランプラリーはいつまで続くのかなどと、「トランプ2.0」を前にして騒然としているが、はっきりしていることはただ一つ。このアメリカ大統領の出現で、地球温暖化はますます進むということだ。

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山田順
ジャーナリスト・作家
1952年、神奈川県横浜市生まれ。
立教大学文学部卒業後、1976年光文社入社。「女性自身」編集部、「カッパブックス」編集部を経て、2002年「光文社ペーパーバックス」を創刊し編集長を務める。2010年からフリーランス。現在、作家、ジャーナリストとして取材・執筆活動をしながら、紙書籍と電子書籍の双方をプロデュース中。主な著書に「TBSザ・検証」(1996)、「出版大崩壊」(2011)、「資産フライト」(2011)、「中国の夢は100年たっても実現しない」(2014)、「円安亡国」(2015)など。近著に「米中冷戦 中国必敗の結末」(2019)。

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