2025.02.19 COMMUNITY DAILY CONTENTS NEWS インタビュー

アカデミア探訪 エグゼクティブインタビュー 国立大学法人北海道大学 産学連携グローバル推進室副室長 天野 斉(あまの ひとし)

「Boys, be ambitious.」 アメリカで、北大発の大志を抱く!

ニューヨークでは何を食べましたかとの問いに「年甲斐もなくステーキをフルコースで注文し、あえなく大量のフードロスを出してしまいました(SGDs日本一なのに…)。NYUに留学していた頃の勘を取り戻さないと」と話す天野さん

北海道大学特任教授、弁理士。東北大学大学院修了(工学修士)、小樽商科大学ビジネススクール修了(MBA)。1991(平成3)年4月、通商産業省特許庁に入庁。化学やライフサイエンス系の特許出願の審査・審判に従事し、国際課、企画調査課での政策立案を担当した他、首席審査長、審判部門長等を歴任。この間、内閣府、文部科学省、日本貿易振興機構(JETRO)、日本医療研究開発機構(AMED)等に出向。2021(令和3)年7月、北海道大学で発明発掘、権利化、技術移転を行う産学連携推進本部の副本部長に就任。スタートアップ創出本部の立ち上げにも参画し、24(令和6)年4月からは産学連携グローバル推進室も兼務。同年7月から新設された「産学協働サテライト室」室長として東京勤務。同年8月弁理士登録。2000~2001年に文部科学省在外研究員としてニューヨーク大学(NYU)ロースクールに客員研究員として留学。北海道旭川市出身。

 古いインフラを活かしつつ、新たなテクノロジーも導入して共存している街だと改めて感じました。例えば、厳かな外装のグランドセントラルの地下に大きな鉄道駅ができていたり、イエローキャブと Uberが並走する光景や、エンパイア・ステート・ビルを眺める場所にスタートアップ向けのウェットラボができていたりと、このような共存がいまなおニューヨークの懐を拡げ、活気の源でもあると思いました。
 日本との比較では、とにかくコストが高く、出張者の気持ちが小さくなってしまう感覚に大きな驚きを覚えました。物価が上がっているのは世界では自然なことでしょうが、なんといっても円安により日本の貧しさを感じてしまい、寂しくもなりました。2011年当時は最も円が高い時代でしたので、その感覚で食事や買い物をしてしまうと大変な円建て請求額になってしまい、日本が置いて行かれている現実を強く認識しました。

「ニューヨークに来ると必ずリンカーンセンターに行きます。留学時代はお金がなくて、(桟敷席で)オペラを立ち見していましたが、今回は着席でREGORETTO(リゴレット)を見ました!日本より身近にハイクオリティーの芸術に触れられるのが、この街の魅力の一つですね」と、目を輝かす天野さん。オペラ歌手のように姿勢が良くて素敵です

 ご存じのように北海道大学は、約150年前にマサチューセッツ州からクラーク博士をお迎えして開設された農学校を起源とする大学です。その伝統的な大志を抱くフロンティア精神は、アメリカとの親和性が高いと思っています。そのようなアメリカで、北海道大学発の研究成果を通じた技術移転やスタートアップが成長できるフィールドとパートナーを探しています。
 昨年8月にはシリコンバレーに行き、ベンチャーキャピタルやインキュベーション施設を訪問し、意見交換を行いました。今回、ニューヨークに来る前も最近日本企業の進出が相次いでいるノースカロライナ州に立ち寄り、コラボレーションできる可能性を探ってきました。シリコンバレーでは、日本でのスタートアップ支援活動は学園祭のようなお祭り騒ぎだという厳しい言葉もいただきましたが、真摯に受け止め、今後も本場アメリカでの成長の場を探し求めていきたいと思っています。

 北海道大学では、開学以来の強みである農学や、近年活発なライフサイエンスの研究成果を社会実装する活動を強化しています。また、最近ではSDGsの取り組みで5年連続日本一の評価もいただいています 。このような研究の強みを海外にも展開すべく、令和6年度には文部科学省から活動資金をいただき、米欧アジアに活動拠点を開き、リエゾンパーソンを置き、産業界とのコラボレーションを推し進める活動も展開しています。アメリカでは、人材や資金が最も集まるここニューヨークを活動拠点として、特にライフサイエンスの成果発信や技術移転を進めてきましたが、北海道と同様に広大な地を持つアメリカにおいては、農学でのコラボレーションも進め、グローバルなイノベーションに貢献できないかと模索しています。
 また2025年からは、全国9カ所の大学発スタートアップ支援拠点が一体となって活動を始め、北大や北海道地域のみならず、オールジャパンとして海外展開活動を強化し始めたところです。ニューヨークには、日本のアカデミアがより頻繁に訪れるようになると思っています。

 アメリカの大学と日本の大学との間で研究成果の社会還元実績を比較すると、研究費は4倍程度、特許取得件数は2倍程度の差しかない一方、社会実装の結果である特許料収入になると50倍の開きがあるとのデータがあります(いずれもアメリカの方が大きい)。これは、研究開発力ではさほどの差がないものの、日本では、その社会実装のやり方がまだ未熟であると解釈できます。
 日本の研究開発の実力は、アメリカと比べて為替相場に表されるような差ではなく、大きなポテンシャルを持っています。世界を豊かにするためにも、日本の大学が創出する研究成果を社会に Extensionする力をもっと強化していきたいと考えています。ニューヨークをはじめ、全米で活躍されている皆さんの力もお借りし、このような取り組みを通じて、同時に日本の国力も挙げていけないかと思っています。

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