Q. トランプ新政権では税が新たにかけられたり引き上げられたり・・・アボガドやトマトなどメキシコからの輸入に依存する品も多く、これらを含めた日常必須品の物価はやはり上がってしまうのでしょうか?
A. トランプ大統領が1月20日に就任し、やはり話題はどうしても再任した新大統領による生計費への影響に集まるのが避けられませんね。実際、就任早々、関税政策の動きが活発です。対中国では、一律60%の関税をかけると事前に示唆していた方針から、10%の追加関税に修正して発動。対カナダ・メキシコでは、25%関税の発動を1カ月停止にしました。言動に変化球が多く、実行に移される政策を見極めにくい印象です。
やはりトランプ大統領は、一般的な政治家像をイメージするより、ビジネスパーソンであり、特に自分の掲げる米国第一主義にプラスとなる「ディール」を積極的に求める人物であるということがカギなのではないかと思います。就任前からのインタビュー等における発言を拾うと、「関税には多くの目的がある」「経済以外の分野でもとても強力な手段となる」などと述べていますし、「相手国から譲歩を引き出すことを目的として利用する」という趣旨のコメントをしています。
つまり関税政策は交渉の道具であり、言及した当初案がそのまま実行されるか否かは、目指す目的の対象となる相手国との交渉の行方次第と考えていいでしょう。トランプ大統領の関税政策はとても流動的だと言わざるを得ません。果たして、発動を停止した対カナダ・メキシコの25%関税は1か月後にどうなることやら・・・。
一つの目的として貿易赤字の修正を強く目指していると云われています。もしそうであれば、経済論の筋としては貿易収支が関税ですう勢的に修正されるものではないと思われますから、関税がスケールアップする可能性も否定できない。ただし貿易赤字の解消でなくとも、別のディールを引き出すことが出来れば収まるのかもしれません。景気への影響を考慮していないわけではないでしょうけど、検討される政策一つ一つそれぞれによる後々への影響を深く見極めてというよりは、相手からの譲歩を得られ、とりあえずの成果が見えやすい米国第一主義の戦略的な実施を意図しているように感じられます。
さて、少し回り道をしましたが、日常必須品の物価動向はどうなるでしょう。FRBは、1月末のFOMCでも今後のインフレ率の低下を想定し、2025年中に政策金利を追加的に0.5%ポイント引き下げる見通しを維持しました。つまり、基本感としては景気がさらに緩やかに減速し、インフレ圧力がもっと後退していく中で、追加の金融緩和が想定されているということです。
この見立てに対し、トランプ大統領の関税政策は確かにインフレ圧力が上振れするリスクを示していると受け取れます。しかし、面白いのは米ドルの反応。関税をかける・引き上げる政策の言及や発動にドル高方向で反応する傾向が見られるからです。関税の物価上昇圧力をドル高が打ち消したり弱めたりする方向に働く可能性があります。つまり、カナダ・メキシコに対して25%関税を発動しても、もし米ドルが上昇するなら、そのままストレートに物価上昇という結果に反映されない可能性があるでしょう。
もっとも、米国経済がさらなるドル高と並走するか、出来るかという点がポイントになってきます。景気がFRBの見立て通りであれば、景気が鈍化していく下で追加利下げがあれば、ドル高にはなりにくいでしょう。しかし、一方、足元の雇用のデータを見ると労働市場の悪化に歯止めがかかっている様子もあり、意外にしっかりしているかもしれません。それが市場に米ドル高の一要因として受け止められていると見ることも出来そうです。また、トランプ大統領の他の経済政策は米国景気を押し上げる方向に作用する公算があるようにも思われます。
従って、今後の日常必須品の物価動向は、トランプ大統領の関税政策やその他の経済政策、当面の米国経済の自力度合い、FRBの政策運営、米ドルの為替レートといった要素のバランス次第。ムービングパーツ、つまり、定まらない未確定要素が多く、予想がとても難しいです。少なくとも、まだカナダ・メキシコに対する25%関税の発動は確定していませんし(すぐに停止期間が終わりますけど)、仮に発動されても、それがアボカドやトマトの価格上昇にそのまま反映されるとは限らない・・・というところが今の正直な回答になるでしょうか。
先生/榊原可人(さかきばら よしと)プロフィール

SInvestment Excellence Japan LLC のマネージング・パートナー。主にファンド商品の投資仲介業務に従事。近畿大学非常勤講師(「国際経済」と「ビジネスモデル」を講義)。以前は、米系大手投資銀行でエコノミストを務めた後、JPモルガン・アセット・マネジメントで日本株やマルチアセット運用業務などに携わる。
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