『SUMO』The Public Theatre 425 Lafayette Streetで3月30日まで
『Maybe Happy Ending』Belasco Theatre 111 West 44th Streetでオープンエンドラン
劇作家のフィリップ・W・チョンは、1917年に公開された『チャップリンの冒険』に登場するアジア人男性に着目し、好奇心をそそられた。『My Man Kono』はコウノ・トライチ( 高野虎市)の実話に基づいている。1900年15歳のトライチは留学目的で単身渡米した。いずれチャリー・チャップリンの運転手として雇われ、後に付き人、秘書となり、チャップリンの3番目の妻と衝突して辞任するまで18年間勤めた。失業したコウノは日本との貿易関係の仕事をしていたが、スパイ容疑で逮捕され、正当な手続きなしに6 年間(1941〜47)投獄された。コウノはスパイ容疑で起訴されることはなかったが、日系人の投獄を正当化するには黄禍論だけで十分だった。チョンは、市岡雄二がコウノの事件について書いた文章を読み、訪日し残された家族に話を聞き、1000ページを超えるFBIの調書を調べ、劇の後半でフィクションとして宣誓証言と裁判を想定した。コウノ役のブライアン・リー・フインと、アメリカ自由人権協会(ACLU)の弁護士ウェイン・コリンズ役のロバート・メクシンは、手に汗握る演技を披露。出演者全員が印象に残る舞台を見せてくれた。なお、コリンズ弁護士は忠誠登録の2つの質問に「NO」と答え市民権を放棄した約5,000人の日系人の市民権回復をほぼ一人で手がけ、20年以上の歳月をかけて市民権回復を勝ち得た人である。この物語は80年前のものだが、反移民感情、「使い捨て移民」、自国以外の国への強制送還の脅威など、歴史が繰り返されていることを実感させる。

この劇団にはこれまで、ローレン・イー(『カンボジアのロックバンド』)、ヘンリー・デヴィッド・ファン(『Mバタフライ』、『イエロー・フェイス』)、ルーシー・リュー(『キル・ビル』、『シャザム!神々の怒り』)、ダニエル・デイ・キム(テレビ番組 『ハワイ・ファイブ・オー』、『LOST』;『ゴールデン・チャイルド』、『イエロー・フェイス』に出演、韓国のテレビシリーズをアメリカの『グッド・ドクター』シリーズに製作)等が関わっている。
『Sumo 』は2月20日から3月30日まで、オフブロードウェイのザ・パブリック・シアターで上演されている。

アメリカの演劇プロデューサー/演出家のジョセフ・パップ(パピロフスキー)は1921年ブルックリンに生まれた。両親はロシア帝国に征服されたポーランド・リトアニア連邦から逃れてきたユダヤ系移民だった。1954年、パップは「ニューヨーク・シェイクスピア・フェスティバル」を設立。夏のイベント「シェイクスピア・イン・ザ・パーク」は今日でも一般市民に無料で提供されている。1967年、パップはラファイエット・ストリートのアスター図書館に年中公演可能な舞台の本拠地を構えた。この建物は、ニューヨーク市歴史建造物保存法により、取り壊しを免れた最初の建物である。公共劇場として、新劇やミュージカルを中心に上演している。ここからブロードウェイに進出したヒット作には、『ヘアー』、『コーラスライン』、『ハミルトン』等がある。パップは、少数民族や有色人種の俳優を使った、従来とは異なるキャスティングにこだわった。
『SUMO』の劇作家リサ・サナエ・ドリングは、ハワイとネバダ出身の日系四世のハーフで、脚本家/演出家でもある。大相撲に魅せられたのは、脚本家になろうと考える前に日本を旅行したのがきっかけになった。『SUMO』は2023年にカリフォルニア州ラホヤ・プレイハウスで、オビー賞受賞者のラルフ・B・ペーニャを演出家に迎えて世界初演された。ペーニャは、今回のパブリックでの公演のために、6人の俳優とクリエイティブ・チームを再結集させた。
大相撲は男の世界だが、ドリングは日系人女性劇作家として、日本の神道文化に根ざした大相撲を舞台に持ち込んだ。彼女が相撲をどう扱うのか、興味津々だった。アメリカの観客が期待しそうなものを提供し満足させるのだろうか、私は相撲ファンとして、彼女が古代のスポーツを取り上げる限界に失望するのか——そんなことを危惧しながら見に行ったが、逆に日本人ではない彼女だからこそ描ける素晴らしい舞台を見ることができた。
文/中里 スミ(なかざと・すみ)
アクセサリー・アーティト。アメリカ生活50年、マンハッタン在住歴38年。東京生まれ、ウェストチェスター育ち。カーネギ・メロン大学美術部入学、英文学部卒業、ピッツバーグ大学大学院東洋学部。 業界を問わず同時通訳と翻訳。現代美術に強い関心をもつ。2012年ビーズ・アクセサリー・スタジオ、TOPPI(突飛)NYCを創立。人類とビーズの歴史は絵画よりも遥かに長い。素材、技術、文化、貿易等によって変化して来たビーズの表現の可能性に注目。ビーズ・アクセサリーの作品を独自の文法と語彙をもつ視覚的言語と思い制作している。
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