『SUMO』The Public Theatre 425 Lafayette Streetで3月30日まで
『Maybe Happy Ending』Belasco Theatre 111 West 44th Streetでオープンエンドラン
ザ・パブリックのウェブサイトに掲載された短いビデオは、このスポーツの身体性と俳優たちが受けたトレーニングに焦点を当てていた。6人の力士を演じた俳優たちは、体格だけでなく、演技でもその役を全うした。ジェームス・ヤエギシは、相撲コンサルタント兼共同監督として、スピード感あふれる激しい取組の振り付けを担当した。デビッド・シーによる土俵入りはそれらしきものだった。番付を競い合う厳しさと仲間意識が力士たちの個性を際立たせていた。親方にスカウトされたアキオ(スコット・ケンジ・タケダ、4世)は野心家で生意気。横綱になった関脇のミツオは傲慢だが、不安もある。番付の階級意識やしごきは、言葉よりも肉体的なやり取りで描かれる。

ドリングの相撲界を見た外部者としての視点は、アキオが心身ともに変貌を遂げながら出世していく力士へと育てていく。文化的な装飾として太鼓、能、歌舞伎のイメージが使われたのは、アメリカの観客のためだろうが、検番や化粧まわしなど、細部まで注意が払われていた。取組前の塩まきはなかったが、それについては理解できる。
長年の相撲ファンである私は、ドリング、ラルフ・B・ペーニャ(フィリピン系アメリカ人の劇作家、演出家、プロデューサー)、汎アジア的なキャスト、そしてプロダクションの専門家たちがこのスポーツを理解していることに感銘を受けた。
2024年11月12日からブロードウェイのベラスコ劇場で上演されているミュージカル『Maybe Happy Ending』は、チケットが売れ収益がでる限り公演を続ける「オープンエンドラン」となっている。ブロードウェイでは、ヒット・ミュージカルのリバイバル、有名ポップスターを起用したミュージカルが多い中、この作品は新鮮で楽しい。

2013年、ブルックリンでコーヒーを飲んでいたヒュー・パークは、イギリスのミュージシャン、デイモン・アルバンの『Everyday Robots』を聴いて、このミュージカルのアイデアを思いついたという。友人のウィル・アロンソンに連絡し、二人は2014年2月に物語の企画を始めた。アイデアをウラン文化財団(ソウルの非営利団体)に売り込み、彼らの支援プログラムに受け入れられた。2015年9月、ソウルでの3夜公演は3分で完売した。韓国語と英語で書かれ、2016年にニューヨークで両言語で上演された。このミュージカルは、ウーラン文化財団が支援した初の海外プロジェクトだった。2017年からは、東京、横浜、大阪、アトランタ、上海、南京等で短期公演も行われ、ソウルでは、第5シーズンが2024年6月18日から9月8日まで上演された。ニューヨーク公演は最長ロングランとなっている。ニューヨーク・タイムズ紙の批評家が選ぶベスト・オブ・ザ・イヤーに選ばれ、ウォールストリートジャーナル紙、デイリー・ビースト紙、その他多くの雑誌で評価されている。
物語は2064年のソウル郊外にある廃棄された家庭用ロボット達の施設での、ヘルパーロボット少年とヘルパーロボット少女の物語である。ロボットなので人間的な感情はないが、人間の持ち主から譲り受けた行動を見せる。ダレン・クリスが演じるオリバーは、バージョン3のロボットで、その動きはぎこちなく、保育園児のおもちゃのような硬い髪型と服装をしている。彼は無邪気で、12年経っても持ち主であったジェームスが迎えに来てくれることを願う楽天家だ。そんな彼の静かな日常を、向かいに住むバージョン5のロボット、クレアが邪魔をする。
彼女の人間に近い攻撃的な悲観主義は、オリバーとは対照的でユーモラスだ。オリバーもクレアも廃用化に直面している。オリバーにはWiFiの交換部品がもうないし、クレアはオリバーの充電器を借りなければ常にコンセントに接続していなければならない。オリバーはジェームズの影響でジャズが大好きだ。シナトラのようにゆっくりと優しく歌うギル・ブレントリー(デズ・デュロン)が、舞台を通してノスタルジックなメロディーを奏でる。タイトル曲「What I Learned from People」は、アメリカ芸術文学アカデミーのリチャード・ロジャース賞と韓国音楽賞6部門を受賞している。心地よく聴ける曲が、このミュージカルを多文化・多世代の観客に親しみやすいものにしている。
このSF物語は、現代の寓話である。充電、WiFi、交換部品、賞味期限、陳腐化、パスワード、メモリーといった言葉が新しい意味を持つ。 それは、私たちが日常生活で依存するようになった機器にも、年を重ねる私たち人間にも当てはまる。
文/中里 スミ(なかざと・すみ)
アクセサリー・アーティト。アメリカ生活50年、マンハッタン在住歴38年。東京生まれ、ウェストチェスター育ち。カーネギ・メロン大学美術部入学、英文学部卒業、ピッツバーグ大学大学院東洋学部。 業界を問わず同時通訳と翻訳。現代美術に強い関心をもつ。2012年ビーズ・アクセサリー・スタジオ、TOPPI(突飛)NYCを創立。人類とビーズの歴史は絵画よりも遥かに長い。素材、技術、文化、貿易等によって変化して来たビーズの表現の可能性に注目。ビーズ・アクセサリーの作品を独自の文法と語彙をもつ視覚的言語と思い制作している。
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