「え〜、10個で240円!?」
一時帰国して、スーパーの卵売り場で口走ってしまった。アメリカでの卵価格高騰で、しばらく卵断ちをしていた。アメリカでは、1個が150円 相当に達するというカオスだが、日本ではその1個の値で6個が買えるとは−。

卵は「物価の優等生」というのが、日本の常識。2024年8月の価格は、1キログラム当たり217円で、これは1991年8月の212円と同じ水準。つまり33年もの間、価格があまり変わっていないことになる(首都圏、ニッセイアセットマネジメントによる)。
2023年に一度だけ306円まで上がったが、現在は1989年から続く150〜250円圏に落ち着いている。
アメリカでは私の記憶によると、新型コロナのパンデミック中、アパートの向かいのボデガでラージサイズが1ダース1.29ドルだった。それが今や5.99ドル。近くのスーパーでは9.99ドルだ。
アメリカの中央銀行の経済データ(FRED、都市圏平均)によると、1980〜2007年まで1ダースは1ドル前後で推移。07〜21年まで2ドル前後で推移し、経済成長が日本に比べて著しいアメリカでは「物価の優等生」であったのは間違いない。しかし、22年から乱高下し、25年2月に6ドルに迫った。今の高騰は鳥インフルエンザの流行という特殊な要因だが、明らかに「優等生」に変化が起きている。
これが私たちの生活にどう影響を及ぼすのか。
もちろん、買い控え、あるいは安いスーパーでの買い占めが起きる。マンハッタンのスーパー、モルトン・ウィリアムズでは、1ダース8.99ドルの卵が山積みになり、同8.99ドルのオーガニック卵は1ケースしか残っていなかった。トレーダー・ジョーズでは、1ダース3.49ドルからと激安だが、買い占めを防ぐため「卵は一人1日1パックまでにしてね」という貼り紙がある。
パンデミックの頃から取材しているメキシカンレストラン「ハングリー・ブリート」のオーナー、アルマンド・デ・ラ・クルーズ氏は、こう話す。
「卵30ケースは1年前30ドルだったが、今は160ドル。バター1本は、2.5ドルから8ドルに。上がらないのは、酒類だけだ。メニュー価格は上げたくないから、店内の照明の数を減らした」
家族連れが楽しそうに集まる週末のブランチメニューは、卵が多く使われる。スクランブルエッグやエッグス・ベネディクト、フエボス・ランチェロス(農場の卵料理という意味)。お客を安心させるために、価格を据え置くアルマンドの気持ちが思いやられる。
卵だけでなく、家計を圧迫する物価上昇は続いている。世界が警戒するトランプ大統領の
「関税押し付け」はさらなる物価上昇を招く。
メイド・イン・チャイナの製品にあふれるアメリカのお店がみなアルマンドのような境遇に追い込まれるのは目に見えている。
(写真と文 津山恵子)

津山恵子 プロフィール
ジャーナリスト。専修大文学部「ウェブジャーナリズム論」講師。ザッカーバーグ・フェイスブックCEOやマララさんに単独インタビューし、アエラなどに執筆。共編著に「現代アメリカ政治とメディア」。長崎市平和特派員。元共同通信社記者。
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