2025.03.14 COLUMN 山田順の「週刊 未来地図」

山田順の「週刊 未来地図」今後ドルはどうなるのか? なぜトランプはFRBを敵視するのか?(前編 完)

ドルの正体はアメリカ政府が保証する債権証書

 日本の場合は、1万円札などの紙幣は「日銀券」である。 つまり、日銀が発行していて、政府に貸し出すというかたちで流通している。ただし、硬貨は、「日本国」の刻印があるように、日本国政府が発行している。
 では、ドルはどうだろうか?
 ドル紙幣をよく見てほしい。「フェダラルリザーブノート」(federal reserve note=連邦準備券)と書かれている。そして、公的債務・私的債務の支払い手段として使えることが明記されている。 
 日本語では紙幣と手形は違う言葉で表現されるが、英語では紙幣も手形もみな「ノート=note」(「bill」「draft」もそう)ある。つまり、ドルというお金の正体は、アメリカ政府が保証する債権証書である。これは、日銀券も基本的には同じだ。
 通貨というのは、現代においては、発行した政府が保証する債権(ノート)のことなのである。
 ただし、ドルがほかの国の通貨と違うのは、通貨発行によって得られる利益をアメリカ政府が実質的に得られない点にある。

ドルはどのようにして発行されるのか?

 ドル紙幣を製造しているアメリカ造幣局(BEF)の工場は、アメリカ国内に2カ所ある。首都のワシントンD.C.とテキサス州のフォートワースだ。このうち、ワシントンD.C.の造幣局では、ドル紙幣の印刷工程がガイド付きで見学できる。
 私は昔、娘が高校生のころに、娘といっしょにここを見学した。ガイドに案内されて工場内の見学通路から、ガラス越しにドル紙幣がどんどんプリントされてローラー上を流れていく過程を見た。
 「こんな簡単にお札ができるの?ということはお札が刷れれば、すぐに金持ちになれるね」と、娘は言った。
 たしかに、その通りである。
 印刷・製造工程はともかく、これを行っているのがFRBで、FRB傘下のメインの連邦準備銀行であるニューヨーク連邦準備銀行が、財務省証券(United States Treasury security:アメリカ国債)を引き受けるというかたちで、ドル紙幣が発行される。

アメリカ政府はFRBに債務を負っている

 たとえば、政府が1億ドル必要だとする。すると、財務省が財務省証券を1億ドル発行し、FRBがこれと同額の小切手を発行して引き受ける。この小切手を政府がFRB傘下の連邦準備銀行に入金して、ドルが生み出されるという仕組みだ。
 つまり、1億ドルは単に、財務省証券と引き換えのドル紙幣というかたちで、「無」から生み出される。連邦準備銀行は、なにか実物的な資産を提供しているわけでもなく、政府の口座に1億ドルと記入するだけである。
 こうして得た1億ドルで、アメリカ政府は、公共事業を行ったり、福祉を行ったりする。ドルは市場に出るわけだ。
 ただし、ここで問題が生じる。このシステムでは、アメリカ政府はFRBに債務を負うかたちになる。つまり、FRBは政府へカネを貸していて、それを取り立てできることになる。

ドルは小口に分けられたアメリカ財務省証券

 政府が発行した財務省証券には利子がつく。つまり、政府は償還時が来たらFRBに利子をつけて返さなければならない。
 では仮に利子を5%とすると、返済額は1億500万ドルなるが、この1億500万ドルを政府はどうやって調達するのだろうか?
 前記した発行システムでは、ドルは新しく1億ドル発行されたのだから、世の中に出回っているドルの額から見ると、500万ドル足りないことになる。つまり、アメリカ政府は国民から税金を集め、再度、財務省証券を発行しなければならなくなる。
 このドル発行の仕組みは、中央銀行が「準備金」(リザーブ)を持たなくてもできるという画期的な制度である。
 かつての金本位制(ゴールドスタンダード)では、イングランド銀行のような中央銀行は、金銀貨幣および金銀地金を準備金として、それに見合った通貨を発行してきた。発行した銀行券に対しての担保を積んだのである。
 しかし、アメリカの連邦準備制度では、これをしなくていいのである。

金利が税金になるFRBと基軸通貨のからくり

 もともと、アメリカの銀行は準備率がゼロで、連邦準備制度では民間銀行はFRBの当座預金に準備金を積まなくてもよくなっている。
 したがって、ドルは政府が差し入れる「利子がつく国債(紙切れ)」の代わりに、「利子がつかない小額に分割された紙幣(紙切れ)」として発行される。
 具体的にイメージすると、FRBは「国債」を1ドル札、5ドル札、10ドル札と小口分割して、新しい紙に印刷して流通させているということになる。それを国民が受け取り、最終的にそのドルで政府のFRBへの金利支払いを、税金というかたちで納めるのだ。
 ところで、ドルは世界の基軸通貨だから、それを使うかぎり、アメリカ国民でなくともこの金利を支払うことになる。私たち日本人も同じだ。
 ドルが世界の基軸通貨ということは、全世界から金利収入を得られることを意味する。では、その収入はどこに行くのだろうか? アメリカ政府ではない、FRBである。
  *今回はここで終わります。続きは、次回配信の(後編)でお届けします。

【読者のみなさまへ】本コラムに対する問い合わせ、ご意見、ご要望は、
私のメールアドレスまでお寄せください→ junpay0801@gmail.com

山田順
ジャーナリスト・作家
1952年、神奈川県横浜市生まれ。
立教大学文学部卒業後、1976年光文社入社。「女性自身」編集部、「カッパブックス」編集部を経て、2002年「光文社ペーパーバックス」を創刊し編集長を務める。2010年からフリーランス。現在、作家、ジャーナリストとして取材・執筆活動をしながら、紙書籍と電子書籍の双方をプロデュース中。主な著書に「TBSザ・検証」(1996)、「出版大崩壊」(2011)、「資産フライト」(2011)、「中国の夢は100年たっても実現しない」(2014)、「円安亡国」(2015)など。近著に「米中冷戦 中国必敗の結末」(2019)。

山田順の「週刊 未来地図」その他の記事
山田順プライベートサイト

RELATED POST