2025.03.28 COLUMN 山田順の「週刊 未来地図」

ウクライナの次は台湾・日本? アメリカに見捨てられる「衝撃シナリオ」!(完)

武力による台湾併合はリスクが高すぎる

 このような見方を示したのは、昨年5月に発表された「アメリカン・エンタープライズ公共政策研究所」(AEI:American Enterprise Institute)と「戦争研究所」(ISW:Institute for the Study of War)の共同プロジェクトのレポートである。
 その主旨は、「統一のために中国は台湾に侵攻する必要はない」というもので、「われわれはこのことを長いこと見逃してきた」というのだ。
 要するに、中国は武力攻撃によって台湾を併合するようなリスクの高いことはやらない。やるとしたら、台湾を丸ごと封鎖し、台湾経済を止めて「中台和平協定」の締結に持ち込んで統一を成し遂げるというのだ。
 こうされたとき、はたしてアメリカは軍事力を行使して封鎖を破り、台湾を守るだろうか?
 この「台湾包囲・封鎖作戦」は、台湾が独立の動きを見せた際には即座に実行される。まず、中国海軍による海上封鎖、港湾封鎖が行われ、台湾に向かうすべての船舶が停止させられる。当然、台湾海峡は封鎖される。
 台湾は島国だけに、封鎖は容易だ。

包囲・封鎖されたら2週間しか持たない

 このような「台湾包囲・封鎖作戦」は、じつは合理的かつもっとも成功度が高い作戦だ。
 なぜなら、台湾はほぼ全エネルギーを輸入に頼っているからだ。エネルギー資源は主としてLNGと石炭だが、LNGの備蓄は11日間、石炭の備蓄は39日間しかない。つまり、封鎖すれば、台湾は2週間しか持たないのである。もちろん、半導体製造などできなくなる。
 「台湾包囲・封鎖作戦」は、戦争ではない。台湾への砲撃・空爆も、ミサイル攻撃も、上陸作戦も行われない。よって一般市民の命は失われない。こうなったとき、アメリカ軍、そして日本の自衛隊はなにができるのか? 尖閣諸島も台湾と同時に包囲・封鎖されたら、自衛隊は出動するのか?
包囲・封鎖作戦というのは、これまでの戦争で幾度となく行われてきた。いわゆる「兵糧攻め」である。日本の戦国時代では、豊臣秀吉が得意とし、三木合戦、備中高松城の戦い、小田原征伐などで行い、いずれも成功している。
 国共内戦においても、毛沢東の八路軍が、長春攻略で行なっている。それにより、長春市民数十万が餓死に追いやられ、国民党軍は敗走した。その壮絶さを描いた遠藤誉・著『もう一つのジェノサイド 長春の惨劇「チャーズ」』は、日本人なら必読の書だ。若いとき、これを読んで、私はしばらく呆然とし、言葉を失った。

「見捨てられる」側ではなく「見捨てる」側

 習近平は、軍事侵攻による台湾併合のリスクを十分に理解している。そんなことをすれば、国際社会から非難を浴び、いくら国内紛争と強弁しても、政権は崩壊しかねない。また、上陸・占領に失敗するというリスクもある。さらに、本当に米中戦争になってしまう可能性もある。
 よって、「台湾包囲・封鎖作戦」は合理的かつもっとも成功度が高い作戦なのである。ロシア人と違って「孫子の兵法」を持つ中国人は、「戦わずして勝つ」ことを目指す。 
 トランプのウクライナ発言を巡って、「次は日本だ」という声が高まっている。それは、日本が次のウクライナで、アメリカに見捨てられることを意味している。しかし、台湾有事が本当に起これば、対米従属しか選択肢のない日本はアメリカと同じ行動を取らざるを得ない。それは、台湾を「見捨てる」ということである。
 つまり、日本は「見捨てられる」側ではなく、「見捨てる」側になる。いまのまま、単に防衛費の増強だけで、戦略なき安全保障政策を続けて行くだけでは、当然、そうなる。はたして、そんなことでいいのだろうか。

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山田順
ジャーナリスト・作家
1952年、神奈川県横浜市生まれ。
立教大学文学部卒業後、1976年光文社入社。「女性自身」編集部、「カッパブックス」編集部を経て、2002年「光文社ペーパーバックス」を創刊し編集長を務める。2010年からフリーランス。現在、作家、ジャーナリストとして取材・執筆活動をしながら、紙書籍と電子書籍の双方をプロデュース中。主な著書に「TBSザ・検証」(1996)、「出版大崩壊」(2011)、「資産フライト」(2011)、「中国の夢は100年たっても実現しない」(2014)、「円安亡国」(2015)など。近著に「米中冷戦 中国必敗の結末」(2019)。

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