2025.04.03 COLUMN 山田順の「週刊 未来地図」

トランプ・ゼレンスキー喧嘩別れ 自由経済は消滅してクラッシュがやって来る! (下)

トランプは女性議員に徹底して嫌われている

 いまや共和党は、政治理念、政治信条なき政党に成り下がり、単なるトランプを親分と担ぐ「トランプ党」である。とはいえ、そんななかでも、反トランプ議員はいる。ただ、声を上げるとトランプに干されるので、声を上げない。
 しかし、やはり女性は強い。トランプは、なによりミソジニスト(misogynist:女性差別主義者)だから、知的女性からは毛嫌いされている。筆頭は、リサ・マーコウスキー(アラスカ州選出上院議員)で、彼女は、「トランプ政権は同盟国から離れ、ロシアのプーチン大統領を受け入れようとしているようだ。吐き気がする」と痛烈に批判した。
 彼女のほかに、スーザン・コリンズ(メイン州選出上院議員)も、トランプを嫌っている。
 また、男性のピーター・リケッツ(ネブラスカ州選出上院議員)とトム・ティリス(ノースカロライナ州選出上院議員)も、トランプには批判的である。
 3月1日の「ワシントン・ポスト」紙は、エディトリアルで、トランプのゼレンスキーに対する振る舞いは、映画『ゴッドファーザー』の主人公でマフィアのボスである「ドン・コルレオーネのようだった」と批判した。

挑発したのはウクライナではなくアメリカ

 トランプはまったくの無知で、自分が信じたいこと、有利なことしか信じない。その最たるものが、「ロシアとの戦争はウクライナが始めた」である。
 その意味するところは、ウクライナがロシアを挑発しなかったら、プーチンは侵攻しなかった。だから、戦争はウクライナが始めたということだが、これは、まさにプーチンの主張そのままだ。
 じつはプーチンの主張には一面の真実があるが、トランプは主語を間違えている。というか、わかっていない。ウクライナを反ロシアに仕立てあげ、ロシアに対して挑発させたのは、じつはアメリカだからだ。
 その発端は、2014年の親ロのヤヌコヴィッチ政権を転覆させたマイダン革命であり、その主導者は前記したビクトリア・ヌーランドだ。
 つまり、ウクライナではなく、アメリカがこの戦争を招いたとも言えるのだ。当時は、オバマ政権でバイデンが副大統領だった。
 それなのに、政権が代わったら、「援助」から「見殺し」に態度を180度変えてしまう。民主党も共和党も同じアメリカ人ではないのか。アメリカ国内の政争によって、ウクライナのような小国が翻弄されるままになっていいはずがない。
 そしてなにより、アメリカに対する信頼が失われる。それは、自由と人権、民主主義が後退し、世界が弱肉強食のジャングルと化すことを意味する。

「EUなんてクソ食らえ」で政権を転覆

 親ロ政権を転覆させて、親欧米政権を打ち立てたマイダン革命は、アメリカが仕組んだクーデターであり、暴力による革命だった。なぜなら、当時、国務省次官補だったヌーランドは、ウクライナの極右勢力に資金援助をして、武装訓練までして解き放ったからだ。
 当初、副大統領だったバイデンは、「いかなる条件下でも、戦闘はするな」と言っていたというが、彼女はそれを無視した。
 2014年2月、キエフのマイダン広場での政府に対する抗議運動が警察との戦闘に発展すると、ヤヌコヴィッチと西側が支援する野党は、フランス、ドイツ、ポーランドの仲介により、国民統一政府をつくり、年内に新しい選挙を実施するという協定案に署名した。
 しかし、それでは満足できない極右でアメリカが組織化した民兵グループは、国会議事堂を襲撃し、ヤヌコヴィッチ大統領と国会議員たちを力で追い出したのである。
 このクーデターの間に、ヌーランドと駐ウクライナ大使のジェフリー・パイアットとの電話音声が流出した。そのなかで、ヌーランドは「EUなんてクソ食らえ」(Fuck the EU)」と言っており、これが大問題になった。しかし、国務省は彼女をかばい、謝罪だけですませた。
こうしたアメリカによる政権転覆劇が、その後、ロシア系住民の保護を名目にしたプーチンの「クリミア併合」の引き金となり、2022年のロシアの「ウクライナ侵攻」へと結びついたのである。

親ロか親欧米かでミンスク合意は有名無実に!

 2022年から始まったウクライナ戦争の直接的な事の起こりは、ウクライナ側が「ミンスク合意」をまともに履行しなかったことにある。
 ミンスク合意というのは、2014年のロシアによるクリミア併合の際、東部地域の親ロ派の自治を認めることで停戦に合意したというもの。 仲介したのは、ドイツとフランスだった。 しかし、ネオコンは東部地域とクリミアを取り戻さなければ気がすまなかったようだ。
 ウクライナのこの20年を振り返ると、親ロか親欧米かで何回も揺れ動いている。
 まず、2004〜05年のオレンジ革命がある。このときは、親欧米派のユシチェンコが政権を握った。次は、2010年の大統領選で、このときは親ロ派のヤヌコヴィチが当選し、EUとの政治・貿易協定を見送ったため、大規模な反政府運動が起こった。
 こうして、2014年にアメリカの工作による「マイダン革命」が起き、その反動でロシアによるクリミア併合が起こり、ポロシェンコ政権が誕生してミンスク合意が結ばれた。
しかし、ミンスク合意は守られず、東部における内戦はずっと続いてきた。プーチンが“ネオナチ”と呼ぶ武力集団「アゾフ連隊」による、ロシア系住民の弾圧が繰り返された。そんななか、2019年に ゼレンスキーが大統領に就任したが、結局、なにもできず、ロシアの侵攻を招いてしまった。

この続きは4月4日(金)発行の本紙(メルマガ・アプリ・ウェブサイト)に掲載します。 
※本コラムは山田順の同名メールマガジンから本人の了承を得て転載しています。

山田順
ジャーナリスト・作家
1952年、神奈川県横浜市生まれ。
立教大学文学部卒業後、1976年光文社入社。「女性自身」編集部、「カッパブックス」編集部を経て、2002年「光文社ペーパーバックス」を創刊し編集長を務める。2010年からフリーランス。現在、作家、ジャーナリストとして取材・執筆活動をしながら、紙書籍と電子書籍の双方をプロデュース中。主な著書に「TBSザ・検証」(1996)、「出版大崩壊」(2011)、「資産フライト」(2011)、「中国の夢は100年たっても実現しない」(2014)、「円安亡国」(2015)など。近著に「米中冷戦 中国必敗の結末」(2019)。

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