連載110 山田順の「週刊:未来地図」 東京五輪は“奴隷の祭典”か? ボランティア募集の勘違いといくつかの懸念 (上)

 今月初旬、この連載で取り上げた「東京五輪ボランティア問題」だが、6月11日に大会組織委員会から正式な「募集要項」が発表され、ネットではまたも大炎上してしまった。「なんら改善されていない。これで人が集まるわけがない」という心配する声から、「これでは“奴隷の祭典”ではないか?」という怒りの声までとどまるところを知らない。
 はたして、これで東京五輪ができるのか?
 ボランティア問題のほか、まだいくつもある懸念点も含めて、東京五輪が本当に心配になってきた。

「やりがいがあります」と無償労働を誘う

 さる6月11日、東京五輪・パラリンピック大会組織委員会は理事会を開き、「大会ボランティアの募集要項」を決定して発表した。その内容は、予想されていたとはいえ、これまでの批判や不安の声に応えておらず、またもやネットで大炎上する結果になった。
 なんで、主催者側は、一般の人間の意見を聞こうとしないのだろうか?
 この連載で以前取り上げた(本紙1日号、4日号、5日号既報)ように、東京五輪ボランティアとは、主催者側に都合がいい「無償労働」(タダ働き)に過ぎない。さらに、語学などのスキルを求めている点で「技能労働」になっており、とてもボランティアでまかなえるものではない。きちんとした「報酬」(ギャラ)を払って募集すべきものだ。
 それを、なんと「無償」(タダ)でやろうというのだから虫がよすぎる。
 いまのオリンピックは、ビジネスとして行われる巨大なスポーツイベントである。ビジネスである以上、利益を得る主体がある。
 それなのに、「ボランティア=無償」という誤った考え方が一般に広まっていることをいいことに、募集で集まってきた人間をタダで働かせるというのは、一種の詐欺行為ではないだろうか? 「やりがいがあります」などといって募集するのは、「やりがい搾取ではないか」と批判が出るのは、当然である。

今年いっぱい募集し来年2月に採用決定

 今回、組織委員会は批判があるのを百も承知のうえ、会合を開いて、募集要項を決定した。その前提となった5月の会合では、ボランティアを集めるためには「やりがいをわかりやすくPRしていくことが必要」ということで意見が一致したというから、耳を疑う。問題点はそこではなく、そもそも組織委員会がボランティアに求めることが間違っている点にある。
 今回の公式の募集要項の最終案は組織委員会のHPに掲載されているので、ぜひ、確認してほしい。→https://tokyo2020.org/jp/get-involved/volunteer/about/
 それでは、五輪ボランティアの「仕事」を確認してみたい。ただ、その前にボランティアには2種類あることを知ってほしい。それは、組織委員会が募集する「大会ボランティア」と、開催都市、東京都が募集する「都市ボランティア」だ。前者は8万人、後者は3万人を募集予定で、今回の発表は8万人の「大会ボランティア」のほうである。
 組織委員会のHPによると、この大会ボランティアは、2002年4月1日以前に生まれ、日本国籍や日本に滞在する在留資格を持っている人なら誰でも応募できる。受付期間は今年の9月半ばから12月上旬まで。来年の2月ごろから面談や説明会を始め、9月までに採用を決め、10月からは研修を始める、となっている。

地方から来たら交通費、滞在費は自己負担

 では、どんな活動を求められるのか? また、その際の待遇はどうなっているのだろうか?
 3月に公表された当初案では、「1日8時間で計10日以上の活動」を求めていたが、今回は「8時間の中に休憩や待機時間を含むこと」や「連続での活動日数は5日以内が基本」「大会全体で10日以上の活動」と緩和された。また、あいまいだった食事や交通費も支給されることになった。活動中の事故に備えた保険費用も負担されることが決まった。
 ただし、食事代は当然としても、支給される交通費は「活動期間中における滞在先から会場までの交通費相当として一定程度」というのだから、これは単なる食事付きだけの「完全タダ働き」である。
 オリンピックは2週間にわたって行われる。その後、パラリンピックも2週間ある。その間、連続ではなくとも10日以上はボランティアをするとなると、もし地方から上京するなら、その際の交通費、滞在費は全部自腹となる。
 しかも、2020年になると、開催前オリエンテーションや研修があるが、その際の交通費および宿泊費もすべて自己負担である。これでは、東京とその近郊に住んでいる人間をのぞいて、自腹を切ってまでボランティアをする人間がいるだろうか? 
 知人のスポーツジャーナリストは、こう言う。
 「組織委員会のお役所仕事ぶりにはあきれますね。また、国を挙げての行事だから、国民は喜んで参加すると考えている時代錯誤ぶり、勘違いぶりにはあきれます。
 うがった見方をすれば、夏休み期間中なので、もし人が集まらなければ、高校生や中学生を動員すればいいと考えているのでしょう」(つづく)

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【山田順】
ジャーナリスト・作家
1952年、神奈川県横浜市生まれ。
立教大学文学部卒業後、1976年光文社入社。「女性自身」編集部、「カッパブックス」編集部を経て、2002年「光文社ペーパーバックス」を創刊し編集長を務める。
2010年からフリーランス。現在、作家、ジャーナリストとして取材・執筆活動をしながら、紙書籍と電子書籍の双方をプロデュース中。
主な著書に「TBSザ・検証」(1996)「出版大崩壊」(2011)「資産フライト」(2011)「中国の夢は100年たっても実現しない」(2014)など。翻訳書に「ロシアンゴッドファーザー」(1991)。近著に、「円安亡国」(2015 文春新書)。

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