日本の薬剤師・薬学博士で、現在はコロンビア大学博士研究員の樋口聖先生による「米国市販薬(OTC)講座」。胃腸薬や鎮痛剤など、毎回テーマを絞り、OTCの種類や、安全な選び方を教わる。先生自身、在米3年が経っても米国のOTCには驚かされることもしばしばだという。「一緒にファーマシーを紙面探訪して、賢い消費者になりましょう!」
第12回 「かゆみ止め」
夏真っ盛り。海にスイカに花火大会! 楽しいこと盛りだくさんだけれど、プ〜ンと飛んでくるアイツに要注意。蚊に刺されたときのかゆみ、眠れなくなるほどがまんできないこともありますよね。かゆみ止めも症状に応じて上手に使い分けることができます。
抗ヒスタミン成分
アレルギー反応を阻止
蚊やダニなどの虫に刺されたときにかゆみが発生する原因は、これらの虫がヒトの皮膚を刺したときに出す成分が、ヒトの体内でアレルギー反応を引き起こすためといわれています。アレルギー反応が起こるとき、ヒトの体内ではヒスタミンを生産します。これがかゆみの神経を刺激しているのです。そのため、まずはヒスタミンの作用を抑える抗ヒスタミン系のかゆみ止めが有効といえます。抗ヒスタミン効果のあるディフェンヒドラミン(Diphenhydramine)を含むかゆみ止めには「ベナドリル(Benadryl)」など。かゆみの根本に働きかけるため、虫に刺されてから比較的早い段階で使用するとより効果的です。また、「ベナドリル」と聞いてピンときた人もいるでしょう。本連載第7回「アレルギー薬」にも登場しましたね。「成分と効能が同じだから、アレルギー薬をかゆみ止めとして服用してもいいの?」と疑問を持ちますが、経口の抗ヒスタミン薬は成分が全身に回ってしまいます。そうすると睡眠導入薬と成分が同じであるため眠気などの副作用のリスクが発生するので、おすすめできません。塗り薬だと基本は局所に効いて、全身に回る量は微量です。投与経路の違いによって目的や作用が異なることを覚えておきましょう。
抗炎症成分
過剰な免疫を抑制
アレルギー反応が起こるときには体の免疫機能が働いて毛細血管が拡張し、その一帯が炎症を起こしています。いわば免疫機能が過剰に反応している状態。虫刺されの痕が赤く腫れるのはこのせいです。この炎症もまた、かゆみの神経を刺激しています。免疫機能抑制効果のあるステロイド系のかゆみ止めは、「コルチゾン・テン(Cortisone 10)」「アビーノ(Aveeno)」など。有効成分のヒドロコルチゾン(Hydrocortisone)には抗炎症、抗アレルギー作用があるので、刺されたところの皮膚が腫れている場合、すなわち、刺されてから時間が経っている場合、また強いかゆみがある場合に向いています。かき壊して傷になってしまった、傷口が膿んでしまったという場合は、傷の程度によって使用する薬が異なってきますので、医療機関を受診することをおすすめします。
局所麻酔
かゆみ自体を麻痺
かゆみには、弱い痛みを伴うこともあります。この痛みを局所麻酔でブロック。麻痺させて、症状が消えるのを待つといった治療方法です。局所麻酔の特徴は即効性。かゆみに痛みが伴いがまんできないときや、無意識にかいてしまう就寝前に使用するといいでしょう。麻酔成分リドカイン(Lidocaine)を含む「ゴールドボンド(GOLD BOND)」のスプレータイプなどが販売されており、同商品には殺菌作用のある成分、塩化ベンゼトニウム(Benzethonium chloride)も含まれています。
知っておきたいファーマシー用語
OTC(Over The Counter)Drug
=一般用医薬品(俗にいう市販薬)。処方せんがなくても薬局で買える薬。
Active Ingredient=有効成分(薬効を示す物質)。薬の箱の裏に明記されている。
樋口聖 Sei Higuchi, Ph.D.
博士(薬学)、薬剤師(日本の免許)。城西大学大学院・薬学研究科修士課程修了、福岡大学大学院・薬学研究科博士課程修了後、京都大学医学部博士研究員。2015年からコロンビア大学博士研究員として、糖尿病の研究に従事。