連載128 山田順の「週刊:未来地図」トランプが破壊する世界秩序(4)(上)アメリカ第一主義の正体とディープステート

 前回に続き、トランプ大統領がいま、世界をどのように破壊しつつあるのかを見ていく。前回はカナダG7、米朝首脳会談で終わったが、今回はそれ以後、欧州で行ったNATO諸国への“脅迫”を踏まえ、彼が唱える「アメリカ第一主義(America First)」が、単なる「もっとカネをよこせ!」に過ぎないことを示し、さらに、「トランプがじつは“ディープステート”(影の政府)と戦っているのだ」という馬鹿げた話をぶち壊す。

またも女性スキャンダルを暴かれ全否定

 トランプ大統領が、女性にとことんルーズなのはすでによく知られている。あれほどまでにロシアとプーチン大統領に甘いのは、プーチンにその弱点(売春婦と戯れたモスクワの夜)を握られているからといわれているが、そうとしか思えない事実が、つい最近また発覚した。
 今日は、まずそこから話を始めたい。
 報道したのは、トランプに毎度「フェイクニュース」呼ばわりされているCNN。7月21日、CNNは、FBIがトランプの元個人弁護士、マイケル・コーエン氏の自宅などを捜索した際の押収資料のなかに、トランプが関係を持った元モデルへの口止め料支払いに関する会話のテープがあったと報じた。これは、大統領選挙前に、この元モデルがアメリカン・メディア(AMI、「ナショナル・エンクワイアラー」の発行元)と結んだ契約をめぐる権利の買い取りについて協議している内容だという。この契約というのが、すなわち、トランプとの関係を口外しないというものだ。
 トランプはすでに、ポルノ女優ストーミー・ダニエルズさんから、関係を口外しないようにと13万ドルを渡されたと暴露されている。これは、それと同じような話だが、今回はその証拠があるというのだ。
 となると、ロシア疑惑の原因が、やはり“モスクワの夜”だったのではないかと容易に推察される。
 もちろん、これらのすべてを、自称“stable genius”(安定した天才)のトランプは、これまで否定して続けてきた。今回のCNNの報道も、「ウソだ」と即座に否定した。
 いずれにせよ、このような報道が続くのは、この男がアメリカ大統領としてふさわしくないと、ほぼ全メデイアが思っているからである。

NATO諸国に「いますぐ2%払え」と脅迫

 それでは、トランプが今月の欧州歴訪で、どのようにヨーロッパをめちゃくちゃにしてきたかを振り返りたい。
 7月11~12日、トランプは、ブリュッセルのNATO首脳会議に出席し、欧州の同盟国に嫌味を言いまくった。
 会議出席前からトランプは、NATO諸国の国防費が目標のGDP2%に満たないことに、ツイッターで不満を表明していた。だから、メルケル独首相もマクロン仏首相も、トランプの“口撃”には備えていたが、同じことを何度もまくしたてるのには閉口してしまったという。
 では、トランプはツイッターでなにを言っていたのか?
 “What good is NATO if Germany is paying Russia billions of dollars for gas and energy? Why are there only 5 out of 29 countries that have met their commitment? The U.S. is paying for Europe’s protection, then loses billions on Trade. Must pay 2% of GDP IMMEDIATELY, not by 2025.”「ドイツがロシアにガスとエネルギーで莫大なカネを支払っているが、それでNATOになにかいいことがあるのか? なぜ加盟29カ国中5カ国しかコミットメントを達成してないのか? アメリカは欧州防衛にカネを払い、そのうえ貿易で多額の損失を出している。GDPの2%を、2025年までではなく、いますぐ払え」 
 これは、明らかな“脅迫”ではなかろうか。アメリカとの約束を守ってこなかったほうも悪いが、「いますぐ払え」と脅かすほうも賢いとはいえない。
 翌日、トランプは理由不明で会議に45分遅刻した。そうして、またも同じことをまくし立てた。今度は、NATOからの離脱をほのめかし、早急な防衛費の増額を求めたのである。
 さらに、メルケル独首相に対しては、「ドイツは(パイプラインで)ロシアの“人質”になっている」と非難した。

初訪問の英国でメイ首相に余計な“お説教”

 ブリュッセルでNATO首脳たちが頭を抱えるなか、トランプは、さっさと英国に向かった。なんと就任1年半にしての英国初訪問。しかし、ロンドンでトランプを待っていたのは、6万人規模のデモ隊と「トランプ・ベビー」、反トランプ運動を象徴する巨大なバルーンだった。
 これにはさすがのトランプも青ざめ、ロンドン市内入りを回避。テリーザ・メイ首相主催の夕食会は中部のオックスフォード近郊にあるチャーチルの生家ブレナム宮殿で行われ、翌13日の首脳会談もロンドン近郊の首相別邸のチェッカーズで行われた。
 そして、その後、ウィンザー城でやっとエリザベス女王と会うことができたが、閲兵式で女王の前を歩いたり突然立ち止まったりしたため、「非礼」だとして英国民からブーイングが巻き起こった。
 しかし、本当に非礼だったのは、メイ首相に余計な“お説教”をしたことだろう。
 トランプはメイ首相との会談前に、英紙、サンのインタビューを受け、そこで、最近メイ首相と対立して外相を辞任したボリス・ジョンソン氏を立派な首相になると持ち上げたうえ、メイ首相のEU離脱手法に「賛同できない」と言ったのである。さらに、「(このままでは)アメリカは英国ではなくEUと取引するだろう」とし、EU離脱へ向けて英国がどのように交渉するべきかメイ首相に助言したが聞き入れられなかったことまで明かしてしまったのだ。
 このインタビュー記事が公になったのは、なんと、夕食会の後。メイ首相は後ろから殴られたようなものだ。
(つづく)

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【山田順】
ジャーナリスト・作家
1952年、神奈川県横浜市生まれ。
立教大学文学部卒業後、1976年光文社入社。「女性自身」編集部、「カッパブックス」編集部を経て、2002年「光文社ペーパーバックス」を創刊し編集長を務める。
2010年からフリーランス。現在、作家、ジャーナリストとして取材・執筆活動をしながら、紙書籍と電子書籍の双方をプロデュース中。
主な著書に「TBSザ・検証」(1996)「出版大崩壊」(2011)「資産フライト」(2011)「中国の夢は100年たっても実現しない」(2014)など。翻訳書に「ロシアンゴッドファーザー」(1991)。近著に、「円安亡国」(2015 文春新書)。

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