連載136 山田順の「週刊:未来地図」 トランプが破壊する世界秩序(6)(下) 2期8年2024年まで大統領を続ける「悪夢」

中東は大混乱、イスラエルの利益死守
 トランプは、相手の体制が民主制だろうと、独裁制・専制だろうと、そんなことは気にかけない。アメリカの利益になれば付き合い、ならなければ無視するだけ。民主政体を援助する気などさらさらないのである。
 となると、アラブ諸国は反目し合い、今後、まとまることは一切ないだろう。トランプがプーチンに「中東の平和維持」を丸投げしてしまう可能性がある。そうなると、中東はさらに混乱し、スンニ派のサウジアラビアやトルコなどと、シーア派のイランとシリア・アサド政権の大戦争が勃発するかもしれない。
 トランプを見ていると、ただ1つだけ強固な点がある。それは、イスラエルの利益に関しては、徹底して擁護することだ。後援者にラスベガスサンズのアデルソン会長、ヘッジファンドのルネサンステクノロジーのロバート・マーサCEOがついていること、そして溺愛の娘イヴァンカが結婚を機にユダヤ教に改宗したことが、このことを決定的にしている。
 したがって、ユダヤ、イスラエルの敵は、アメリカの敵となる。

トランプはある意味で「平和主義者」
 アジアはどうだろうか?
 中国を除くと、トランプのアジアに対する関心はほとんどない。アメリカの勢力圏であり、太平洋からインド洋にかけての覇権が、アメリカにとって死活的な利益と考えている節がない。これは、北朝鮮に対しての態度を見ているとわかる。
 核実験をし、ミサイルを打っている間は相手にしたが、それをやめたら、もう関心を示さなかった。トランプにとっては、ならず者国家であろうと害をアメリカに及ぼさなければいいのである。「なんでわざわざ争わなければならないのか。放っておけばいい」としか思っていないのである。
 そういう意味では、トランプは「平和主義者」である。命とカネを浪費して戦争するなど、バカがやることだと思っているのだ。となると、第2の北朝鮮が出てきても、なにもしないだろう。世界の平和は、こうしてやがては危うくなっていく。
 現在、世界のGDPを民主体制国家とそれ以外の体制の国家に2分すると、半々ぐらいのところまできている。かてつは、民主体制国家、すなわち欧米+日本のほうが圧倒的に大きかった。この秩序が、中国、インドなどの台頭で大きく揺らいでいるのだ。

人口減に陥った中国の敗北は必至
 やはり、中国に対してどうするかで、今後のアメリカ、世界は決まる。これはもう、全面戦争である。中国をある程度叩き潰すまで、アメリカの対中強硬策は続く。
 なぜなら、トランプの貿易戦争はトランプが仕掛けたものではなく、中国がアメリカの世界覇権に挑戦してきたことに対しての反撃だからだ。また、この反撃はトランプの意思ではなく、トランプが大統領になる前から明確になっていたアメリカ中枢の意思でもある。
 いま、私たちは、世界覇権をかけた両大国の争いを見ているのだ。戦場は貿易、武器は関税のように見えるが、本当の戦場はAI、IoT、ロボット、自動運転車などの次世代ハイテク技術である。
 中国は2010年、GDPで日本を抜き、現在のアメリカのGDPの約3分の2まで迫っている。しかし、そのGDPを支える製造業の技術は、すべてアメリカなどから盗んできたもので、まだ、独自でハイテク産業を発展させる力はもっていない。
そのため「中国製造2025」を掲げて、必死にキャッチアップを図っている。
 しかし、「中国の夢」=「アメリカに代わって世界覇権国になる」は実現しないだろう。
 それは、アメリカとの覇権戦争に負けるからではなく、中国自身が内部で力を失うからだ。現在、中国の人口はピークに達しており、この先は急激な人口減と高齢化が襲ってくる。すでに生産年齢人口は減少している。
 2016年1月、中国政府は一人っ子政策を撤廃したが、36年間続いた人口抑制の影響はこれから本格化する。技術がない中国が最大の武器である労働人口を失えば、もはや発展できないのは自明ではないだろうか。
 ちなみに、韓国も人口減に見舞われており、これ以上の経済的発展はあり得ない状況になっている。

米中戦争の本当の敗者になりかねない日本
 さて、こうしたなか、日本はどうなるだろうか?
 トランプはNATO諸国と同じように、「アメリカに守ってほしければもっとカネを出せ」と要求してきている。それに応えて、安倍首相はアメリカ製の兵器の大量購入を約束した。しかし、トランプの要求はそれだけに止まらない。北朝鮮の非核化費用も払え、アメリカ製の自動車ももっと買えと、その要求はずっと続くだろう。
 そうしながら、在韓米軍を引くのだから、当然、在日米軍もある程度引く。
 となると、最終的には独自で核を持つことになるかもしれない。トランプはこれを容認する可能性があるが、そうなると、ドイツにも容認せざるを得なくなり、世界のパワーバランスは大きく揺らぐことになる。
 それでは、経済はどうだろうか? すでにこのテーマの連載の2回目に述べたように、米中貿易戦争の影響を大きく受けるのは日本である。中国の製造業が衰えれば、中国に資本財を輸出している日本企業の業績は悪化する。日本の製造業にとっては、アメリカの対中関税引き上げは、日本製品への関税引き上げに等しい。
 日本企業は、これまで中国を対米輸出の基地としてきたが、これを早急に第三国に移すか、日本に戻すか、あるいは思いきってアメリカ国内に移転するかの選択に迫られる。
 しかも、日本はすでに大幅な人口減時代に突入してしまっている。トランプであろうとなかろうと、早急にダウンサイズ型の改革をしないと、衰退は免れないだろう。
 いずれにせよ、トランプが長期政権になると、世界は協調とバランスを失って不安定になる。そして結果的に、「アメリカ・ファースト」からアメリカ自身も衰退してしまう可能性がある。
 ここまでグローバル化してきた世界で、なにをいまさら国vs.国で争う必要があるのか? トランプのアタマの中は、石器時代と言うほかない。(了)

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【山田順】
ジャーナリスト・作家
1952年、神奈川県横浜市生まれ。
立教大学文学部卒業後、1976年光文社入社。「女性自身」編集部、「カッパブックス」編集部を経て、2002年「光文社ペーパーバックス」を創刊し編集長を務める。
2010年からフリーランス。現在、作家、ジャーナリストとして取材・執筆活動をしながら、紙書籍と電子書籍の双方をプロデュース中。
主な著書に「TBSザ・検証」(1996)「出版大崩壊」(2011)「資産フライト」(2011)「中国の夢は100年たっても実現しない」(2014)など。翻訳書に「ロシアンゴッドファーザー」(1991)。近著に、「円安亡国」(2015 文春新書)。

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