連載155 山田順の「週刊:未来地図」 米中貿易戦争で中国は敗戦を受け入れるのか?(中) 人民元が変動相場制になる日

アメリカのやり方は
ヤクザのやり方と同じ

 さて、話を戻す。
 これまで私は、今回の米中貿易戦争は貿易戦争でも通商戦争でもなく、紛れもない「覇権戦争」であると何度も書いていてきた。したがって、この戦争は貿易収支が解消しようと、新通商協定が結ばれようと終結しない。

 アメリカ側から見ると、中国が覇権争いから降りない限り永遠に続く。つまり、中国が「一帯一路」構想を引っ込め、「中国製造2025」という目標を放棄し、 さらに2049年の「中国の夢」(中国が世界一の国家になる)を断念しない限りは終わらない。
 ノーベル賞経済学者のポール・クルーグマンは、ニューヨークタイムズ(NYT)のコラムなどで、終始一貫して対中制裁関税を批判してきた。中国と貿易戦争を続ければ、アメリカ経済は取り返しのつかない事態を迎えると主張してきた。
 しかし、彼はトランプ嫌いのリベラルの主張を展開しているだけで、歴史的・政治的状況を見誤っている。なぜなら、リベラルの中にも「中国封じ込め政策」を支持する人は多いからだ。実際、民主党議員の中には、徹底したドラゴンスレイヤー(dragon slyer:対中強硬派)がいる。
 トランプのアタマがいくら脆弱とはいえ、この辺のことは理解できている。なぜなら、トランプは制裁関税発動の目的を「知的財産権を守るためだ」としたからだ。トランプは、「中国はアメリカの技術を盗んでいる」と訴えた。
 となると、中国がいくら妥協して貿易赤字を解消してみせても、“盗み”をやめなければアメリカはOKしない。つまり、この戦争に、交渉による落としどころは存在しない。なぜなら、仮に中国が盗みをやめたとしても、それを誰も証明できないからだ。
 つまり、アメリカがそれを認定しない限り、この問題は終わらない。たとえは悪いが、アメリカのやり方はヤクザの“いちゃもん”と同じだ。中国がある程度「参りました」と表明しない限り、アメリカは許さない。しかし、習近平主席がそんなことを言うだろうか?

「自由貿易を守る」
という中国の詭弁

 アメリカの中国封じ込め政策を考えると、そのポイントは2つある。1つは、これまでの貿易・通商政策を改めて、中国への依存度を低めること。もう1つは、為替政策により、中国を国際経済の枠組みに完全に引き込むことだ。
 対中制裁関税は、この最初の目的を達成するための手段である。トランプは、もう中国製品はいらないと言っているのだ。
 この戦略は、ナヴァロ氏の著書「Crouching Tiger(邦題:米中もし戦わば、2015年)」に、はっきり書かれている。「経済力による平和」という章で、ナヴァロ氏は、中国製品への依存度を減らすことを主張している。こうして、中国との貿易のリバランスを図れば、中国の経済と軍拡は減速するとしている。
 では、もう1つのポイント、為替政策とはなにか?
 それは、人民元を「変動相場制」に移行させ、基軸通貨ドルに対する挑戦をやめさせることだ。中国政府は、数年前から人民元を国際通貨にすることに注力し、2016年、ついに「SDR(IMFの特別引き出し権)バスケット」入りを実現させた。
 しかし、いまだに人民元は国家が管理する「管理フロート制」(managed float rate system)をとっている。これはかつての「固定相場制」( fixed exchange rate system:レートをドルに固定)よりはましだが、国家の介入でレートを動かせるだけに、貿易相手国にとっては大きな不利となる。
 中国はアメリカを非難するときは必ず、「中国は自由貿易を守る」と言っている。しかしそれなら、自国通貨を変動相場制にしなければならない。それをしないで、「自由貿易を守る」など言うのは、単なる詭弁にすぎない。
 では、どうしたら人民元を変動相場制に移行させることができるだろうか?
 それで言われているのが、「第2プラザ合意」なのである。
(つづく)

【山田順】
ジャーナリスト・作家
1952年、神奈川県横浜市生まれ。
立教大学文学部卒業後、1976年光文社入社。「女性自身」編集部、「カッパブックス」編集部を経て、2002年「光文社ペーパーバックス」を創刊し編集長を務める。
2010年からフリーランス。現在、作家、ジャーナリストとして取材・執筆活動をしながら、紙書籍と電子書籍の双方をプロデュース中。
主な著書に「TBSザ・検証」(1996)「出版大崩壊」(2011)「資産フライト」(2011)「中国の夢は100年たっても実現しない」(2014)など。翻訳書に「ロシアンゴッドファーザー」(1991)。近著に、「円安亡国」(2015 文春新書)。

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