連載170 山田順の「週刊:未来地図」 社会を分断する「人種差別」の罠(2、中) 私たちはなぜ知らず知らずに差別してしまうのか?

人間の脳は分類しないと情報を処理できない

 心理学者でUCバークレー教授のロドルフォ・メンドーサ=デントン博士の研究によると、人類は生まれながらに「自分」と「他者(よそ者)」を区別する傾向を持っているという。この生来の傾向で、人間は信頼する味方と敵を区別し、敵から身を守ることで今日までサバイバルしてきたのだという。さらに、人間の脳は区別して分類することで、ものごとを記憶していくという。
 多くの脳科学者が言うのは、人間の脳はものごとをすべて分類して考えるようにできているということ。そうして、ものごとに意味付けをして記憶していくのだという。これは人種に限った話ではない。性別、年齢、血液型、国籍、宗教、貧富、学歴、など、区別できるものすべてだ。
 たとえば、血液型と性格の間には相関性などないのに、ある人がA型とするとA型の典型とされる「まじめで約束を守る」などというレッテル貼りを行い、脳のなかの記憶のボックスにしまい込む。この脳の仕組みにより、「A型の人は〇〇」「B型の人は〇〇」などという、ステレオタイプ思考ができあがる。
 話を人種に戻すと、「白人は〇〇」「黒人は〇〇」「イエローは〇〇」という言い方を、私たちは平気でするようになる。
 なぜ、人間の脳はこのような記憶の仕方をし、それに意味付けしてしまうのだろうか? それは、結局のところ、ホモ・サピエンスが常に外敵に怯えて生きてきたからだという。なにかにつけて、そうしないと落ち着かないからだという。つまり、「白人は〇〇である」「黒人は〇〇である」とすることで安心するのだ。こうして、アメリカでは「黒人はみな犯罪者予備軍である」という根拠なきステレオタイプ思考ができ上がってしまった。
 ここで思い出してほしのは、トランプ大統領の発言だ。彼は、典型的なステレオタイプ思考の持ち主で、「メキシカンはレイプ魔だ」「ハイチはシットホール・カントリー(便所国)だ」と、平気で悪びれず口にしてきた。
 ステレオタイプ思考というのは、言葉を変えれば「単純思考」である。この世の中にあるものごとが、そんなに単純なはずがない。ものごとを分類で考えるのは、頭が悪い証拠で、人間の脳の限界だという。
 人間の知能指数の平均は100ほどだから、このように分類しないと情報を処理できない。しかし、今後、IQが人間の脳を超えるので、そのときは、複雑なものを複雑なまま情報処理していくとされる。

世の中の圧倒的多数が「分類主義者」

 しかし、こうした脳の仕組みを知れば、ステレオタイプ思考から離れ、ものごとをきちんと捉えようとする人々が出てくる。とくに科学者は先入観に捉われない。
 そういう人々は、たとえば、「イスラム教徒といってもテロを起こす過激派もいれば穏健な人々もいる。同じイスラム教徒として一括りにするのはおかしい」と考える。しかし、トランプはこのように考えているだろか? 答えは書くまでもないだろう。
 人種も同じことである。白人だろうと黒人だろうと、イエローだろうと、人は千差万別である。人それぞれである。ところが、世の中にはこのように考えない人々がいる。これを「分類主義者」と呼ぶことにすれば、こちらのほうが圧倒的に多い。
 もうおわかりかと思うが、区別して分類することが、最終的に差別を生む。
 そういう人々のタチの悪い点は、自分でも気がつかないうちに無意識に区別・分類していることだろう。分類主義者は、常に自分が優位な分野で、差別する。人種なら、白人なら白人であることだけで「白人至上主義」(white supremacy)に走り、それが過激ならKKK(クー・クラックス・クラン)のようになる。
(つづく)

【山田順】
ジャーナリスト・作家
1952年、神奈川県横浜市生まれ。
立教大学文学部卒業後、1976年光文社入社。「女性自身」編集部、「カッパブックス」編集部を経て、2002年「光文社ペーパーバックス」を創刊し編集長を務める。
2010年からフリーランス。現在、作家、ジャーナリストとして取材・執筆活動をしながら、紙書籍と電子書籍の双方をプロデュース中。
主な著書に「TBSザ・検証」(1996)「出版大崩壊」(2011)「資産フライト」(2011)「中国の夢は100年たっても実現しない」(2014)など。翻訳書に「ロシアンゴッドファーザー」(1991)。近著に、「円安亡国」(2015 文春新書)。

この続きは10月30日発行の本紙(アプリとウェブサイト)に掲載します。 ※本コラムは山田順の同名メールマガジンから本人の了承を得て転載しています。