なぜ「日本スゴイ」の洪水が起こっているのか?
分類主義者が大活躍するのは、経済が悪化し、貧困化が進んだときだ。こうなると、同じ国民、同じ民族、同じ人種で、結束感が強まり、ナショナリズムが過激化する。
自信をなくした人々は、自己肯定する要素を探すようになり、それがナショナリズムに結びつく。
近年、日本人はどんどん右傾化している。そのため、日本のテレビでは「日本スゴイ」番組が毎日のように放送されるようになった。「日本スゴイ」の洪水が起こっている。
人は誰でも自分を肯定したい。ほめられたい。優れていると思いたい。しかし、自分に優れたところがなにもないとしたら、どうするだろうか?
「日本はすごい国だ、日本人は優秀だ」というところに逃げ込むしかないだろう。そうすれば、同じ日本人ということで、心の安定を得られる。
だから、日本と日本人を批判する(ネット用語では「クサす」)と、そういう人々は火がついたように怒る。同じ日本人という分類で自分がクサされているという気分になるからだ。私は、たまにだが、こうした人々の攻撃対象になって、ネットに書いたコラム記事が炎上したことがある。
人間の脳は区別はするが差別はしない
黒人がほとんどいない地域では、白人の赤ん坊は黒人を見かけたとき、ジーッと見つめるという。これは日本でも同じで、日本人の赤ん坊は、黒人が視野に入るといつまでも目で追いかける。ところが、同じ日本人だと見るだけで追いかけない。
これでわかるのは、前記したように、人間の脳が生まれつき自分と違う他者を区別するようにできているということだ。しかし、脳は区別はするが差別はしない。「白人のほうが黒人より優れている」という情報を与えない限り、脳は差別はしないのだ。
差別は、区別して分類するとき、意味付けをするから起こる。つまり、子どもに、世界にはさまざま人種・民族がいて、見た目や習慣は違うが差別はしてはならないということを積極的に教えていかなければ、大人になって人種差別主義者になってしまうのだ。
人種差別を解消する方法の1つとされているのが、「相手を個人として扱うこと」だとされる。子どもたちに、「白人は〇〇」「黒人は〇〇」などという差別につながる言い方を大人がしないことである。
いずれにせよ、このような分類に基づくステレオタイプ思考では、子どもたちは、いくら勉強しても教養を身につけられない。
日本人のほうがアメリカ人より差別する
人種差別をなくすもう1つの方法は、心理学でいわれる「単純接触効果」(mere exposure effect)だ。
これは、初めのうちは興味がなかったり苦手だったりしても、何度も見たり聞いたりすると、好きになっていくという現象だ。たとえば、音楽の場合、何度も聞いていくうちに親しんで、好きになっていくということはしばしば起こる。
この現象は1960年代後半に心理学者のロバート・ザイアンスが論文で発表したことから「ザイアンス効果」とも呼ばれる。
つまり、人種に対する偏見をなくすには、言葉で議論してもあまり意味がなく、それより、その人種の人々と接触するほうが効果がある。実際、ステレオタイプ思考をなくすには、それに当てはまらない人々との個人的な接触が重要だとする研究成果は、いくつも発表されている。異人種同士の混合教育も、人種差別をなくす効果があることはよく知られている。
そういう視点で見ると、日本人のほうがアメリカ人より、はるかに人種差別主義者だということになる。この国には、アメリカのように多様な人種・民族がいない。ほとんどが同質の日本人だけだから、「単純接触効果」を期待しても起こりようがないからだ。
日本の子どもたちは、たとえばクラスに違う肌の色の子どもが転校してくると、ジロジロとずっと見つめている。アメリカの多くの地域では、少なくともこれはない。
(了)
【山田順】
ジャーナリスト・作家
1952年、神奈川県横浜市生まれ。
立教大学文学部卒業後、1976年光文社入社。「女性自身」編集部、「カッパブックス」編集部を経て、2002年「光文社ペーパーバックス」を創刊し編集長を務める。
2010年からフリーランス。現在、作家、ジャーナリストとして取材・執筆活動をしながら、紙書籍と電子書籍の双方をプロデュース中。
主な著書に「TBSザ・検証」(1996)「出版大崩壊」(2011)「資産フライト」(2011)「中国の夢は100年たっても実現しない」(2014)など。翻訳書に「ロシアンゴッドファーザー」(1991)。近著に、「円安亡国」(2015 文春新書)。
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