あれこれNY教育事情 ニューヨーク市公立学校 ダイバーシティ計画の促進と州統一テスト

 
先月号でニューヨーク市の公立学校のダイバーシティ(多様化)計画について紹介した。その議論の最中である9月26日、発表が遅れていたニューヨーク市の州統一試験の結果が発表された。州統一テストの結果と公立学校への進学が直結するニューヨーク市は、全米でも特殊な学校区(School District)だ。

州統一テストとは?

 州統一テストとは州ごとに実施が義務付けられた、公立学校の生徒の学力や学習状況を把握するためのもの。小学校から中学校までの3年生から8年生までは学年ごと、高校の9年生から12年生は教科ごとに実施される。
 教育要項が全校で統一されている日本と違い、米国では教育実施基準を各州がそれぞれ定める。その基準に基づいてテストが作成されるため、州ごとに名称、内容、そして評価方法も異なる(2010年に全米統一の教育実施基準である「コモンコア」が作成されたが、全ての州が採用しているわけではない)。

テストの評価方法

 ニューヨーク州では3年生から8年生までに実施される試験はNew York State Examination(ニューヨーク州統一テスト、通称コモンコアテスト)と呼ばれ、ELA(国語)、 MATH(算数・数学)とScience(理科、科学)が毎年4月に実施される。試験の点数はスケールスコアと呼ばれる3桁の点数で表され、その点数が「プロフィシェンシーレーティング」と呼ばれる評価点数として1・0から4・5に換算され、4段階の「パフォーマンスレベル」に分類され、学年水準との比較で評価される。 レベル1は「全く及ばない」、2は「部分的に達している」、3は「同等」、4が「上回る」となる。
 9年生から12年生で受ける教科別テストはRegents (リージェンツ)と呼ばれ、各教科履修後の6月に実施される。試験の点数は0から100のスケールスコアで表され、65点以上でその教科を「履修した」とみなされる。
 試験の点数は観点別評価(criterion-referenced test)のため、集団内での順位ではなく、生徒個人の学力の進捗度を知る客観的な資料であり、生徒のグレードリポート(成績表)には反映されない。
 テストの結果は通常、学年を終えた8月に発表される。以前は、レベル1から2だった生徒は早く結果の知らせを受け、夏休みの補習授業である「サマースクール」への通学が義務付けられ、その後に受ける再テストの結果で9月から進級するか留年となるかが決められていた。しかし現在は、州統一テストの点数のみで生徒を評価することが州法で禁じられているため、「サマースクール」への参加は総合的な評価で決まる。

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「テストスコア」と公立学校の多様化政策

 9月26日に発表されたニューヨーク市の州統一テストの結果は、3年生から8年生の総合結果で、レベル3以上の生徒がELAで46・7%(前年比5%上昇)、MATHで42・7%(同6%上昇)と大きな上昇をみせた。喜ばしいと同時に、今回よりテスト日数が各教科3日から2日になるなど、試験内容が変更になったため、従来のデータとは単純に比較はできない。冷静に見るのも必要だろう。
 ELAとMATHでレベル3と4の生徒の率は、白人生徒が66%と63・5%、黒人生徒が34%と25・3%だった。MATHでは、アジア系生徒の72%がレベル3と4であるのに対し、黒人生徒はわずか22%と、「白人およびアジア系生徒対黒人およびヒスパニック系生徒」の格差は相変わらずだ。人種的、経済的格差による生徒の在籍数偏向の改善を目指す市が、ダイバーシティ計画の実施を早急に求める理由だ。
 多様な生徒の混在が、そのまま学力の向上や向学心につながるというのは短絡的だとする見方も多く、反発や懐疑的な声も上がっている。一方で、「ダイバーシティ・イン・アドミッション」と称される計画の下、低所得家庭出身や州統一テストの成績が悪い生徒の優先入学枠を設ける学校が増えている。中でも注目されるのが、2019年の中学入学の選抜において大きな変更を決定した、日本人居住者が多いことで知られるマンハッタン区の第3学区と、ブルックリン区の第15学区だ。2つとも、中流階級以上の白人生徒が多い有名人気校(セレクティブスクール)と、それ以外の学校の格差が激しい学区とされる。
 マンハッタン区の第3学校区では、全ての中学校で、低所得かつテストスコアがレベル1から2の生徒を優先的に入学させ、全校生徒に占める割合を25%にすることを決定。また、第15学校区では、全ての中学校で、成績や出席率(内申書)、テストスコア、芸術学校でのオーディションを全面的に廃止。志願者をコンピューターで無作為に選ぶ「オープンアドミッション」方式に切り替え、低所得家庭、シェルター住まい、英語が母国語ではない生徒を優先的に入学させ、これらの生徒が全校生徒に占める割合を52%にすることが決定した。
 ダイバーシティ計画が功を奏すれば、今後、貧富と学力格差の激しい他の学校区も追従する可能性がある。
(取材・文/河原その子)

www.schools.nyc.gov