ICTクラスの形態と意義
日本人家族が米国に来て驚くことの一つに特別教育支援のシステムが細かく分かれており選択肢の幅が広いことがある。そのため米国で支援教育を受けていた家族が帰国後、日本には米国と同等の支援教育が存在せず困惑するという声も聞く。米国の支援教育の代表的なものに、Integrated Co-Teaching (通称ICT)クラスがある。特別教育支援の種類は本紙2017年12月号の「IEPと504プラン」で紹介しているが、今回は日本人に馴染みがないため、質問をよく受けるICTクラスについて、2回に分けて解説する。
ICTクラスとは何か?
ICTは 特別支援(スペシャルニーズ)の生徒40%、または最大12人までと通常の生徒(ジェネラルエデュケーション)60%で構成され、通常の教員免許と特別支援教育の教員免許を持つ教師が共同担任を務める、「インクルージョン教育」を実施するクラス。学校の規模にもよるが、ほとんどの公立学校では1学年に1クラス設置されている。授業内容はICTではない他の通常クラスと同じ。地域によってはCollaborative Team-Teaching (CTT) と呼ばれることもある。公立学校では連邦法で各学校区に設置が義務付けられているが、通常の私立学校ではこの限りでなく、同様のクラスを探すことは難しい。
日本の特別支援教育との違い
日本の公立学校では現在、障害のある生徒が普通の公立学校に通学する場合、大きく分けて「特別支援学級」への在籍か、通常学級に在籍し、必要なときだけ支援教室に移動して受ける「通級による指導(通級)」の2通りがある。
特別支援学級の生徒は、ホームルームや給食、また音楽や体育など生徒の特性に合わせて通常学級の生徒と交流を図る場がもたれ、通級では学習はおおむね通常学級で過ごし、一部特別な指導を必要とするものを支援教室で受けるのが基本となる。
特別支援学級および支援教室の教師は、通常の教員免許を持つ教師が研修などで障害に対する理解を深めたうえで担当することがほとんど。盲学校、ろう学校、養護学校などの特別支援学校教員免許を持つ教師が担当する場合もあるが、必須ではない。
通級の必要な生徒が日常的に在籍する通常学級の担任は、障害者教育の専門家ではないため、通級の必要な生徒それぞれのニーズに対応するのは至難である。特別支援教育の専門家が指導すれば、学力面で通常の授業を問題なくこなせる軽度の発達障害や情緒障害、身体的障害がある生徒は多く、さらに特別な分野で水準以上の能力を発揮する生徒も珍しくない。ICTクラスが設置されていない日本の公立学校でこのような生徒の居場所を探すのは難しい。
ICTクラスは障害のある生徒のためだけではない
日本にはない、米国のICTクラスの意義としては次が挙げられる。
1、障害のある生徒が、通常の生徒と関わることで社会性が育まれ、学習する力やコミュニケーション能力が向上する
2、通常の生徒が、障害のある生徒と関わることで社会の多様性に気づき、問題解決能力が育まれる。また、感情面でも成熟する
3、障害のある生徒と通常の生徒が、学習進度を犠牲にせずに高い学習能力を獲得する
共同担任制と副担任の違い
ICTクラスの特徴は共同担任制にある。
クラスの副担任またはアシスタントは通常、授業計画を作成したり成績表をつけたりする担任の補佐的な役割を担当する。これに対してICTクラスでは、1クラス当たり2人の担任が共同でかつ同等の責任を持ち、授業を進める。担任2人の共同作業は他にクラス運営、授業計画の作成、成績評価があり、ペアレント・ティチャー・カンファレンスと呼ばれる保護者面談も、特別支援生徒・通常生徒に関わらず同等の立場で同席する。
特別支援教育の教師は、通常の教員免許も持っているため、通常クラスの生徒も教えられる。特別支援教育の教員免許を得るためには州で定められた試験に合格する必要があり、同教育の修士号など高い専門性を求める学校もある。
2人の担任によるICTでの授業
ICTクラスの教え方にはさまざまな形態がある。次はその一例だ。
①クラスを班に分けて教師2人が巡回する
②クラスを無作為に2分し、それぞれの教師が同じ内容を同時進行で教える
③教師2人が同時に教壇に立つ
④1人が教え、もう1人は生徒の様子を観察し記録する、または補助に回る
ここで間違えてはならないのは、ICTクラスは、特別支援が必要な生徒の成長のためだけに考えられたものではなく、通常生徒の社会性育成も視野に入れて作成された教育モデルでもあることだ。クラス内で特別支援、通常生徒の2つを区別して別々に教えることはない。次回はICTにまつわる誤解と、その問題点を紹介する。(文/河原その子)