連載197 山田順の「週刊:未来地図」大麻合法化に乗り遅れる日本(1の上) ついにNYでも解禁! ビッグビジネスに湧くアメリカ

 今回から数回に分けて大麻(マリファナ)について書く。その理由は、いま大麻産業がビッグビジネスになることがはっきりしてきたからだ。すでにアメリカでは「医療用大麻」はもとより、「嗜好(娯楽)用大麻」も多くの州で合法化されている。この流れは止まらず、今年はほぼすべての州で合法化される模様だ。
 いまや大麻を薬物と考える人はいなくなり、科学的にもたばこより害がなく、依存症に陥る可能性が少ないのが明らかになっている。しかし、日本では依然として薬物扱いで「絶対ダメ」と、厳しく取り締まられている。合法化が議論にもなっていない。となると、大麻ビジネスでも乗り遅れ、日本はますますガラパゴス化してしまう。

なぜNY州は嗜好用大麻を合法化したのか?

 先日、酒場に集まった仲間たちと、ニューヨークで「嗜好用大麻」が合法化されるという話になったら、そのなかの1人が「やはりアメリカはとんでもない国だ」と言い出したのでびっくりした。私が「大麻はたばこより害がないと証明されたので、こうなっているんだ」と言っても、彼は「そんなエビデンスがあるわけないだろ。どうかしている」と、自説を曲げなかった。
 エビデンスなんて言葉を使うのは、日本では医者だけだが、彼もれっきとした医者。そのことにもまた、私はびっくりした。
 大麻(マリファナ)といえば、日本では完全に薬物扱いである。覚せい剤と変わらないものとして、吸ったら中毒になり、人間性が破壊されると信じている人もいる。しかし、これは完全な洗脳の結果であり、なんの根拠もない。それがはっきりし、かえって大麻の効用がわかってきたので、アメリカではまず、医療用大麻が解禁され、それに続いて嗜好用大麻も解禁されるようになったのだ。すでに嗜好用大麻は、コロラド州やカリフォルニア州で解禁され、「大麻ショップ」ができて自由に販売されている。
 ニューヨーク州では2014年6月に医療用大麻が解禁され、それ以後、医療用大麻販売店(ディススペンサリー)ができて、大麻吸引は日常化。大麻入りコーヒーが飲めるコーヒーショップも登場した。こうした流れがあって、昨年12月17日、クオモ州知事が嗜好用大麻を2019年に合法化すると発表したのである。ニューヨーク州ばかりではない。今年は、コネティカット州、デラウェア州、ニュージャージー州、イリノイ州でも合法化されることになっている。

大麻報告書に激怒したニクソン大統領

 では、なぜ大麻の合法化が進んだのか? 歴史的にふりかえってみたい。
 アメリカ政府は1970年代初めに「対麻薬戦争」を宣言し、薬物事犯者を厳しく取り締まる厳罰主義を導入した。当時のニクソン大統領は、「マリファナおよび薬物乱用に関する全米委員会」を組織させ、大麻の有害性を調査するように命じた。ところが委員会が1972年に発表した「マリファナ:誤解の徴候」と題する報告書は、なんと大麻の依存性は弱く、大麻使用による脳の障害は実証されず、大麻使用だけに起因する死亡事件はアメリカでは1件も起こっていないとしたのである。
 もちろん、ニクソン大統領は激怒。報告書の受け取りを拒否して、従来通り厳罰主義でいくことを宣言した。当時、大麻は、「もっとも危険で毒性や依存性が強く、医療効果はない」として、ヘロインなどと同じ危険薬物のカテゴリーの「スケジュールⅠ」(危険薬物を5段階に分類した段階の1番目)に入っていた。コカインやメタンフェタミン(覚せい剤)がその次に危険な「スケジュールII」に分類されていたから、これは明らかにおかしかった。この件は、メディアでも取り上げられ、連邦議会でもたびたび問題になったが、長く放置されてきた。
 しかし、大麻の効用(鎮痛、沈静、催眠、食欲増進、抗がん、眼圧の緩和、嘔吐の抑制)などの研究が進むにつれ、医療用への使用を容認する声が高まった。また、先の報告書にあるような依存性が低いことも証明された。なんと、大麻はたばこやアルコールより、依存性が低いのだった。さらに、禁止すればするほど地下に潜って、不法業者を儲けさせるだけという声も高まった。いわゆる「禁酒法」の二の舞いになるというのだ。

NYTが特集を組み合法化を社説で主張

 こうした流れのなかで、医療用大麻がまず解禁され、その後、メディアによる大麻解禁キャンペーンが始まった。CNNなどは、積極的に大麻の効用を訴えた。メディアキャンペーンの極め付けは、ニューヨークタイムズ(NYT)だった。NYTは2014年7月27日、「Repeal Prohibition, Again(禁止法を再び廃止せよ)」と題する社説を掲載し、それと併せて「大麻特集」を組んだ。
 ここでは、大麻解禁に向けて4つの点が指摘されていた。第1点は、大麻の解禁を求める国内世論が高まってきたこと。この時点で、すでに23州が医療用大麻を合法化し、嗜好用大麻も4州が合法化し、18州が非犯罪化していた。第2点は、健康への害が少ないこと。第3点は、大麻禁止法によって生じる莫大な社会的損失。米連邦捜査局(FBI)の統計では、2012年に大麻所持で逮捕された人は約65万8000人で、ヘロインやコカインなどの逮捕者25万6000人をはるかに上回っていた。しかも、大麻の逮捕者は若い黒人男性に偏っていて人種差別的であり、彼らの人生を台無しにし、結果的に次世代の犯罪者を生み出していると、NYTは指摘した。
 そこで、第4点として、NYTは「連邦薬物規制法」からの大麻の規制を廃止することを主張した。この法律は厳罰主義に基づいているので、これを大麻に関しては取りやめ、生産・流通・販売を許可制にして連邦政府の管理下に置くようにせよと主張したのだ。簡単に言えば、大麻に関しては州に任せろということだ。
 じつは、この連邦薬物規制法の大麻規制は、今年、本当に廃止されそうである。それは、ニューヨーク州などが嗜好用大麻の合法化に踏み切ったこと。さらに、政府内で大麻合法化に強硬に反対してきたジェフ・セッションズ氏が司法長官を解任されたからである。大麻解禁派の連邦議員たちは「ダムは決壊した。もう後戻りはできない」と言っている。彼らは今年、連邦全体で大麻を合法化する法案を提出する。となるとアメリカでは今年、連邦全体で大麻が合法化されるのだろう。
(つづく)

【山田順】
ジャーナリスト・作家
1952年、神奈川県横浜市生まれ。
立教大学文学部卒業後、1976年光文社入社。「女性自身」編集部、「カッパブックス」編集部を経て、2002年「光文社ペーパーバックス」を創刊し編集長を務める。
2010年からフリーランス。現在、作家、ジャーナリストとして取材・執筆活動をしながら、紙書籍と電子書籍の双方をプロデュース中。
主な著書に「TBSザ・検証」(1996)「出版大崩壊」(2011)「資産フライト」(2011)「中国の夢は100年たっても実現しない」(2014)など。翻訳書に「ロシアンゴッドファーザー」(1991)。近著に、「円安亡国」(2015 文春新書)。

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